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ジャン・デュビュッフェ

Jean Dubuffet

 ジャン・デュビュッフェは1901年フランス、ル・アーヴル生まれの画家、コレクター、著述家。パリのアカデミー・ジュリアンに約半年在籍したものの、ほぼ独学で絵画を学ぶ。一時画業を断念してワイン事業に従事。42年に画家に転身し、44年にルネ・ドルーアン画廊で初個展を開催。同じ頃、芸術の教育機関で学ばず独自に表現する人、子供や精神病患者の作品の収集を始め、「アール・ブリュット(生の芸術)」の名づけ親としても知られる。これら特定の流派に属さない人々の作品から影響を受けて、頭部や顔のパーツが異様に大きい肖像画、あるいは身体がアンバランスな人物画など、自身は原始的なイメージを思わせる絵画を描く。デュビュッフェの絵画は、砂などを混ぜた厚塗りの絵具に引っかきの痕跡を残した画面が特徴。フランスの抽象絵画の動向のひとつ「アンフォルメル」の代表的な作家のひとりに数えられる。50年代は油彩による女性像や絵肌に着目した作品、60年代にはジグソー・パズルのように黒で縁取った区画内を色や模様で埋めていく「ウルループ」シリーズと、これを応用したポリスチレンの彫刻作品などを制作。民衆芸術や原始の芸術に潜む人間の生に関心を抱いていたデュビュッフェの表現は、アカデミックな芸術動向に逆行するものであった。

 48年、デュビュッフェは「アンフォルメル」を命名したミシェル・タピエとシュルレアリストのアンドレ・ブルトンとともに、「アール・ブリュット協会」を設立。51年に協会は解散するも、膨大なコレクションをスイス・ローザンヌ市に寄贈し、76年に世界初となるアール・ブリュットの美術館「アール・ブリュット・コレクション」が開館した。85年没。

「アール・ブリュット」は表現すること、生きること、そして根源的な人間とは何かを問う芸術の一ジャンルとして、現在、世界で関心を集めている。日本では、社会福祉法人 松花苑が運営する障害者支援施設「みずのき」(京都府亀岡市)の絵画教室で制作された作品が、アジアで初めてアール・ブリュット・コレクションに収蔵。「みずのき」で制作された作品はみずのき美術館に所蔵され、アール・ブリュットとしての考察が続けられている。2010年にはパリで「アール・ブリュット・ジャポネ」展(アル・サン・ピエール美術館)が開催され、日本のアール・ブリュットが注目される機会のひとつとなった。