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塔尾栞莉

Shiori Tono

 1994年大分県生まれの塔尾栞莉は、尾道市立大学大学院美術研究科美術専攻油画コースを修了し、現在も尾道を拠点に活動。幼少期のアルバムや、塔尾自身が撮影した写真をモチーフとして引用し、ふとした時に思い出される純粋な記憶の大切さをと儚さを表現する。日々脳内に積み重なる情報に過去の思い出たちは押し潰され、時に抽象的かつ断片的なイメージだけが残される。誰しもが持ち合わせている体験に向き合った塔尾は、記憶の曖昧さをデジタル画像の劣化を示すノイズで表し、デバイスの画面を模した画布上に巧みに描出する。モチーフとなる写真が撮られた年代は様々で、記憶の輪郭が不明瞭であるほど作品へかかる歪みが増大し、より本来の姿を見出すことが難しくなる。しかし、大部分が忘れ去られている思い出の中からも、塔尾は自身の脳内に残る断片部分を拾い上げ、3.0x3.0センチのグリッドひとつひとつへ丁寧に当時の思い出に命を吹き込んでゆく。マスキングテープで1列おきにマス目を作り、油絵具を端から淡々と置いていく作業は、現在の塔尾自身を構成しているものたちの存在をキャンバス上へ記録する証明行為である。

 主な個展に「fragments of memory」(MASAHIRO MAKI GALLERY、東京、2020)、「あのひの」(Gallery Bar 夢喰、広島、2018)、「かすむ」(Gallery Bar 夢喰、広島、2017)があるほか、東京を中心にグループ展に参加。2019年にはART TAIPEIにて台湾で初めて作品が展示され、注目を集めた。