東北ならではの視点で選ばれた書籍・民俗資料にも注目。東北芸術工科大学から届いたブックリスト

全国の美大図書館から届いた選書で構成される「美大図書館の書架をのぞく」シリーズ。アートをもっと知りたい、アートも本も好きな読者に向けた連載の第7回目は山形県山形市にある「東北芸術工科大学」をピックアップ。同大学図書館におすすめの本を聞いた。

東北芸術工科大学 図書館 外観
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 全国の美大図書館の司書から届いた選書で構成される「美大図書館の書架をのぞく」シリーズ。アートをもっと知りたい、アートも本も好きな読者に向けた連載の第7回目は、山形県山形市にある「東北芸術工科大学」にフォーカスする。

東北芸術工科大学 図書館 外観

 東北芸術工科大学は「芸術とデザイン」の両方を学ぶことができる、東北有数の芸術・デザイン系大学。都心から離れた場所だからこそ肌で感じられる豊かな自然や多くの社会課題があり、ここで学ぶ学生たちは人と自然を思いやる「想像力」と、社会を変革する「創造力」を会得。自らの意思で未来を切り拓くことができる力を育んでいる。

 図書館が所蔵する15万冊の蔵書のなかには、デザイン書や美術書のほか、東北文化・民俗学の豊富な資料、そして建築家・浅田孝に寄贈された「浅田文庫」もある。この豊かな蔵書が学生たちの深い学びを支えているというのは同大学ならではだろう。

 そんな東北芸術工科大学の図書館にはどのような本があるのか、芸工大の学生はどんな本を読んでいるのか。同館司書による選書をコメントとともにご紹介する。

東北芸術工科大学 図書館 内観
東北芸術工科大学 図書館 内観

年間もっとも借りられている本

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社、2020)

 当館では「文学賞作家の作品たち」という特設コーナーに並んでいる資料です。「推しを推す」という近年になって一般的に定着してきた生活スタイルを基軸に、高校生のうだつの上がらない心情が吐露されていきます。

 著者の宇佐見りんは1999年生まれと学生と近い年代の作家です。装丁を手がけているのはブックデザイナーの佐藤亜沙美、装画を前作『かか』ではLittle Thunder(門小雷)、今作ではダイスケリチャードと、現在活躍中の新進イラストレーター各氏が手がけています。「推し」というオタク文化に親しみのある学生も多いことから手が伸びやすかったのかもしれません。川端康成の小説には、インスタライブは出てきませんからね……。

つくる人向けの本

三瀬夏之介・鴻崎正武(監修)『東北画は可能か?』

三瀬夏之介・鴻崎正武(監修)『東北画は可能か?』(美術出版社、2022)

 「東北画は可能か?」は、2009年に本学の教員である三瀬夏之介と鴻崎正武が学生たちとともに東北における美術を考える活動としてスタートしました。活動のひとつである共同制作は、集団による匿名性をもった作品制作であり、個では成しえない表現がそこにはあります。これらの活動は、個人主義的な作家活動とは異なるこれからのものづくりを考えるヒントになるのではないでしょうか。

 本書では、現在に至るまでの約13年間の共同制作や個人作品が掲載されています。また、これまでに関わったメンバーの対談や椹木野衣石倉敏明村上隆による論考が掲載されており、多角的に考察することができます。

アート入門にぴったりな本

松田文登・松田崇弥『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える』

松田文登・松田崇弥『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える』(新潮社、2022)

 著者の兄で、重度知的障害を伴う自閉症の翔太さんが子供の頃に書いた自由帳にたびたび登場する言葉「ヘラルボニー」。意味を尋ねてもわからないというその謎の言葉を、著者らは「一見意味がないと思われる言葉に、新たな価値を創出したい」という思いを込め、社名に選びました。ヘラルボニーは、主に知的障害のある作家のアートや福祉施設と契約を結び、様々な商品のプロデュースを行う会社です。「ふつう」ではないことは「可能性」であり、その違いを価値に変えたいと力強く語るヘラルボニーという会社はいかにして誕生したのか。現代社会における「ふつう」とは? 「福祉」とは? 心が揺さぶられる1冊です。

「いま、読んでほしい」本