美術館で展示されている作品の解説を音声で聴くことができる「音声ガイド」。大型展などでは、人気の俳優や声優などがナレーションを務めることも多く、美術館を楽しむ新しい要素として注目を集めている。この音声ガイドはどのように制作されているのか。音声ガイドの企画制作から貸し出しまでを手掛ける株式会社アコースティガイド・ジャパンのスタッフに話を聞いた。
音声ガイドができるまで
「学生時代は『展覧会は音声ガイドがなくても普通に楽しめる』と思っていました。ただ見るだけでしっかり展覧会は楽しめるものだ、と」と語るのは、株式会社アコースティガイド・ジャパンでプロジェクト・マネージャーを務める上村夏実だ。上村は大学・大学院で美学美術史学を専攻、近現代のアメリカ美術を中心に研究を行ってきており、美術館で作品を見ることにも慣れ親しんできたために、音声ガイドが鑑賞のときにどうしても余計なものだと感じていたそうだ。「けれども、音声ガイドがあるとないとじゃ、世界の広がり方がまったく違うんです。自分が身をもって体験しました」。
上村の所属するアコースティガイド・ジャパンは、アメリカやイスラエルに本社を置くアコースティガイドの日本支社として1999年に設立。以来、全国各地の美術館・博物館の音声ガイドを制作してきた。ひとりの担当が、ひとつの展覧会の原稿制作から音声収録までをすべて手掛けており、上村は現在10件ほどの展覧会の音声ガイドを並行して担当している。
音声ガイドの制作の日々は時間との戦いだそうだ。音声ガイドの制作は、展覧会の3〜4ヶ月前からスタートする。まずは展覧会の主催者と、音声ガイドの方向性やどのような人物がナレーションにふさわしいかといった、コンテンツの大枠を詰めるところから始まる。「最近は、音声ガイド全体を通してドラマ仕立てにしたり、クイズを盛り込んだり、ユーザーがより深く理解できるような企画を盛り込んでいます」と上村。近年、人気の俳優や声優、タレントが音声ガイドのナレーションを担当することが多いが、キャストの選定方法は展覧会によって異なっている。
「主催者があらかじめ決めている場合もあれば、こちらで提案する場合もあり、プロセスはその都度変わります。展覧会と親和性が高く、必然性のある方が理想的ですが、その方の声質やナレーション経験なども考慮する必要があります。耳もとで約30分間、聞き続ける声ですので、どなたにも心地よい音声が求められています。また、お子様から高齢者の方まで幅広い世代に知名度があることも大切ですね」。