2021年1月現在、事前予約制で20分に120名ほどの来館者を受け入れる体制で開館している国立科学博物館。昨年春の緊急事態宣言下では休館を余儀なくされ、現在も、新型コロナ感染対策として、密になってしまうギャラリートークを休止し、展示案内用のタッチパネルも稼働を止めるなど、制限を設けている。しかし、コロナ禍のそうした状況で、国立科学博物館では新たな取り組みを行っている。同館標本資料センター・コレクションディレクターの真鍋真はトークの導入として、これまで対面で行ってきた実習をオンラインで実施したエピソードを話す。
「昨年は初めて学芸員実習などの実習をオンラインで実施しました。ある実習では、ニワトリの手羽先のお酢煮のレシピを受講者にお送りして調理していただきました。肉を美味しく食べ、骨の標本をつくって、PCの前に座っていただいた。そして私は手羽先を使って、恐竜の手がどのように鳥の翼に進化したのかを解説したのです」。
千葉県のNPO法人「ミルフィーユ小児がんフロンティアーズ」の企画では、「Beam/ビーム」という遠隔操作ロボットを活用し、小児病棟に長期入院する子供たちが病院からロボットを博物館に派遣。展示室で真鍋を訪問し、真鍋が質問に答えるというプログラムも成功させた。そうした試みによって、モニターを通しての双方向対話の可能性を実感できたという。さらにデジタル技術を駆使してコンテンツを発信し、来館できない人々とコミュニケーションを取れれば、感染拡大が収束したのちに実際に来館してもらえるはずだ。そう考えて進められたのが、『ディノ・ネット デジタル恐竜展示室』という企画だ。
凸版印刷の最新テクノロジーで恐竜の骨格標本をデジタルデータ化し、活用するこの取り組み。参加するのは、北海道大学総合博物館、むかわ町穂別博物館、群馬県立自然史博物館、国立科学博物館の4館だ。これまで、博物館同士で展示標本の貸し借りなどで協力し合うことはあったが、共同でデジタルアーカイブを制作する機会はなかったという。
「例えば、群馬県立自然史博物館には、肉がついた状態のティラノサウルスの全身の模型が、国立科学博物館にはティラノサウルスの骨格標本が展示されています。群馬県立自然史博物館の模型をモニター越しに同じアングルで骨格標本と見比べることができるわけです。また、アメリカのスミソニアン博物館では昨年、ティラノサウルスが草食恐竜であるトリケラトプスを襲っているシーンの標本が展示されましたが、デジタル標本であれば360度どこからでも見ることができるので、横に寝た状態のトリケラトプスの骨格を見比べることができるわけです」。
複数の博物館が協力することで、当然ながらアーカイブは充実度を増し、発信できる情報量も増す。そう考えて『ディノ・ネット デジタル恐竜展示室』では、2月に計4回、4館が協力してオンライン講座を行う。第3回と第4回にはアメリカやイギリスの研究者や学生も参加し、国際的なつながりを広げようと試みる。
「大学時代にカナダに1年間留学したとき、現地の教官や学生に日本の化石に関する自分の卒論のことを話すと、『それ面白いね。カナダでも同じような現象が起こっていたよ』と話が弾んだ経験があるんですね。自分がローカルでやっていたことがグローバルにつながることが実感できたのです。大学生の時にそれを感じて以来、自然や恐竜というのは世代も国境も超えてつながれるテーマですし、移動が難しいご時世ですから、インターネットを活用して交流が広がることを目指しています」。
トークイベントのモデレーターを務めた、イベントのプロフェッショナルで地域創生事業支援を専門とする事業構想大学院大学特任教授の青山忠靖が、定期的なオンラインセミナーをプロジェクト事業として確立することに収益力強化への可能性を感じられる、と最後に話すと、真鍋もそこに同意する。
「多くの博物館には友の会などの割引サービスがあります。いままでオンラインでの課金というのは行ってきませんでしたが、オンライン講座を年間割引チケットなどとあわせたパッケージとすれば、友の会の参加者も広がるきっかけになるかもしれません」。
オンラインの活用によってオフラインでの来館を促し、博物館の魅力を高めていく。このコロナ禍というマイナスの状況が、サポーターを増やすための取り組みを再考するプラスの時間になっていることが伝わってきた。