日本の伝統的な風景や造形に「そり」と「むくり」を見出し、戦後日本の抽象彫刻を牽引してきた彫刻家・澄川喜一。その大規模な回顧展が「澄川喜一 そりとむくり」だ。
澄川は1931年島根県生まれ。52年に彫刻家をこころざして東京藝術大学に進学し、塑造(そぞう)を中心とする具象表現の基礎を徹底的に学んだ。彫刻専攻科を修了後は藝大で教職につきながら数々の作品を発表。やがて、木や石などの自然素材に対する深い洞察をへて、日本固有の造形美と深く共鳴する抽象彫刻「そりのあるかたち」シリーズを展開する。
思春期から青年期を、山口・岩国市で過ごした澄川。その創作の原点となったのが錦帯橋だ。下に向かう「反(そ)り」と、上に向かう「起(むく)り」、木造橋の持つそのゆるやかに湾曲する線や面造形美に魅せられた澄川は、70年代以降、40年以上にわたりこの「そりとむくり」を追求し続けてきた。
80年代以降の澄川は、野外彫刻や環境造形にも活動の幅を広げている。現在、日本国内にある澄川の公共彫刻や記念碑、環境造形などは120ヶ所以上。そこには「風の塔」(東京アクアライン川崎人工島)や、東京スカイツリーなど、誰もが知るランドマークも含まれるが、ここにも澄川独自の「そりとむくり」の要素は生かされている。
60年以上にわたり、木造の抽象彫刻を追求してきた澄川。その軌跡をたどることのできる展覧会だ。