招待状
春にこのイタリアを代表する非営利アートセンターを初めて訪れたとき、秋に開幕するジェイムズ・リー・バイヤーズの回顧展について知らされた。1950年代後半からアーティストは10年ほど故郷の米国と日本を行き来し、そこで見た様々な文化と思想から宿命的な影響を受けたのだから、君は必ず見に来ないといけない──早口でそう言ったのは、同館の館長でバイヤーズ展のキュレーターを務めるビセンテ・トドリだ。過去の例に漏れず問いかけのような展覧会になるのかと聞けば、今回はアーティストの名前が展覧会名だという。トドリはスペインでバイヤーズの生前と死の直後に、それぞれ個展を開催している。
申し分のない美を目指してつくられる至高の作品を通じてバイヤーズに出会う旅への招待状に、胸を躍らせミラノを再び訪れた。本展は、20世紀美術におけるもっとも伝説的な人物のひとりであり、今日の芸術家たちからもヒーローとして崇められるバイヤーズの精神性を再検証する展覧会だ。神秘主義を自称し、存在のもっとも深い意味を探求し続けたバイヤーズは70年代から欧米各国をさすらい、97年のピラミッドを目前にした死においてまで完全な美との一体を求め、概念芸術とパフォーマンス・アートの分野に一石を投じた。
とくに今回は広大なワンフロアの会場を活かし、1974年から97年にかけて制作された彫刻作品や記念碑的なインスタレーションを国内外から集めた。バイヤーズと親交があったイタリア人アーティスト、マウリッツィオ・ナンヌッチと交わされた多くの書簡や、ピラミッドの建設に使われた縄を球体にし金色の幕前に祀る晩年の作品《Byars is Elephant》(1997)も含まれている。