青森県・八戸市中心街の回遊性向上と、市民の新たな活動や交流を目的として、7月21日にオープンした「マチニワ」。建物の屋根や壁はガラス張りで、可動式のガラスドアを開閉することで、どの季節も一定の快適性が保たれる。
また、グランドオープン前に行われた植栽ワークショップにて市民の手で植えられた緑にも囲まれているなど、自然の環境がふんだんに生かされているスペースだ。
「マチニワ」の一番の見どころは、「水の樹」と名付けられた噴水兼水飲み場。パイプを枝に、受け皿を葉に見立て、それらをつたって水が流れる仕組みだ。枝の一部はししおどしになっており、水の動きにあわせて葉の部分はカラコロと音を立てる。
この「水の樹」は同県三沢市出身のアートディレクター・森本千絵がプロデュースしたもので、隈研吾建築都市設計事務所の飯塚哲平が設計。モックアップの作成などは丹青社も協同し、具体的なかたちに落とし込んでいったという。
飯塚は設計について「計3ユニットで構成した『水の樹』は、平常時は1ユニットのみ水を流し、イベント時は3ユニットすべてを利用するなど、演出の調整が容易にできる。自然の林のような複雑な見た目を残しつつ、フレキシビリティも担保した」と話す。
また、時報のような役割も持ち、1時間ごとに水と光、そして音楽による演出が行われる。音楽は、青森にゆかりのある歌手・坂本美雨と、八戸市出身のアーティストharuka nakamuraが手がけた。坂本美雨の起用は、かねてより親交の深い森本の発案によるものだ。
2007年の「au Design project」でスノードームのような形状をした液晶に、各地空の模様がライブでリンクし描かれる携帯電話モデル「sorato」を発表した森本。このモデルの発表展示用音楽として雨の声、水の声、雲の声、霧の声といった坂本美雨の歌声が採用された。今回、森本はこの音を思い出し、聴きながら「マチニワ」を企画していったという。
「坂本美雨さんは身体に素直なかた。だから人間の7割が水でできているように、歌声にもゆらゆらとどこか懐かしい胎内のような水の揺らぎを感じます。自分の内側にあるものと、自分ではコントロールできない大自然に宿った聖なる音を両方兼ね備えられている。それがharuka nakamuraさんの八戸への想いと、『水の樹』の息吹と共鳴して、素晴らしい音が生まれました」と森本は話す。
今後「マチニワ」は、ステージパフォーマンスやフードイベント、ワークショップなど、様々なかたちで活用されていく。
2020年には、建築家・西澤徹夫の設計で「八戸市新美術館」が開館予定の八戸市。ますます注目されるエリアとなりそうだ。