稲垣足穂の世界観を6人のアーティストが表現。「TARUHO《地上とは思い出ならずや》」がタルホ文学の舞台・神戸で開催

『一千一秒物語』や『少年愛の美学』などで知られている小説家・稲垣足穂(1900〜1977)。その世界観を、内林武史、大月雄二郎、桑原弘明、建石修志、鳩山郁子、まりの・るうにいの6人の作家が表現するオマージュ展「TARUHO《地上とは思い出ならずや》」が神戸のギャラリーロイユで開催される。会期は6月4日〜25日。

大月雄二郎 キネマの月 キャンバスに油彩 S40

 大正から昭和初期にかけて活躍し、いまも多くの文学者や美術家を魅了する稲垣足穂(1900〜1977)。神戸で育った稲垣足穂は、関西学院普通部を卒業した後、佐藤春夫の知遇を経て『一千一秒物語』を出版し、異端の作家として一躍注目を集め、『少年愛の美学』で日本文学大賞を受賞した。このタルホ文学の背景となった神戸のギャラリーロイユで、オマージュ展「TARUHO《地上とは思い出ならずや》」が開催される。会期は6月4日〜25日。

 本展では、足穂の本の装幀を数多く手がけた建石修志、まりの・るうにいをはじめ、内林武史、大月雄二郎、桑原弘明、鳩山郁子といった足穂を敬愛する現代の作家6人の作品を展示。油彩、版画、パステル、オブジェなど多彩な技法で足穂の世界観を再解釈する。

大月雄二郎 赤鉛筆の由来 銅版画

 パリを拠点に油彩、オブジェ等を制作する大月雄二郎。カンヌ映画祭のポスターを手がけるなどフランス文化に根付いた活動を続け、2011年フランス芸術文化勲章を受勲。油彩《キネマの月》は、キネマ(シネマ)の舞台に月が昇り、夜の帷が降りるシーンが描かれており、明るくユーモラスな画面にミステリアスな空気が漂う。

内林武史 異空への窓・イクウヘノマド ミクストメディア、オブジェ 150×105×47m
内林武史 丘の上の光り 305 ミクストメディア、オブジェ 420×128×128mm

 木材、金属、鉱物、電気部品など様々な素材を使い、機械、都市、記憶などをテーマにオブジェ作品を制作する内林武史。物語のなか、異世界へと誘う「マド」を表現した本のオブジェ《異空への窓・イクウヘノマド》では、木製の本箱の奥で幻想的な光を放っている。街外れの小高い丘に佇む街灯に月が灯る様子を表現した《丘の上の光り 305》は、心のなかにだけ存在する風景をかたちにした温かくノスタルジックな作品だ。

桑原弘明 月光密造者 ミクストメディア 67×62×78mm

 極小のスコープ作品を制作する桑原弘明。巖谷國士らに見出されたその超絶技巧、幻想世界は、見る者を驚嘆させる。本展に出品したscope《月光密造者》は、同名の足穂の小説を主題にしたもので、露台で月の光で酒を醸造する風景を小さな真鍮の箱に閉じ込めた作品。覗き穴からなかを覗くと、精巧につくられた極小の世界が目の前に拡がる。

建石修志 日誌-結晶 油彩、アルキド絵具 F40
建石修志 木馬に跨って 油彩、アルキド絵具 F6

 数々の幻想文学の装画で活躍してきた建石修志は、これまでに稲垣足穂の装画も数多く手がけてきた。本展に出品した混合技法による《日誌-水晶》、《木馬に跨って》は足穂の短編小説「水晶物語」を題材とした作品。何万年もの時間をかけて硬く美しく結晶した鉱物に魅せられ、宇宙の起源にまで思いを馳せる少年を描いた。

鳩山郁子 Radiator Angel ケント紙に墨汁、不透明水彩 135×180mm
鳩山郁子 カールの棲む街 ケント紙に墨汁、不透明水彩 254mm×203mm

 少年を主題に幻想的な世界を描く漫画家・鳩山郁子は、その卓越した画力により表現領域を広げ、様々な技法を駆使した絵画作品を発表。本展には足穂の小説から着想を得て、独自の解釈で描いた作品を多数出品。美しく細やかな筆致で描き込まれた作品に想像力が掻き立てられる。

まりの・るうにい スパークする彗星 紙にパステル S40

 稲垣足穂の書籍の装画、挿画で知られるまりの・るうにいは、ルフランのパステルで足穂の宇宙世界を表現。関西では初めての展示であり貴重な機会となる。《スパークする彗星》は電信柱の並ぶ人影のない通り、美しい閃光を放ち、降りそそぐほうき星の群を描いた作品。

編集部

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