東京・天王洲の「Terrada Art Complex Ⅱ」にあるギャラリー・YUKIKOMIZUTANIで、添田奈那による個展「I’m fine」が開催される。会期は2月17日〜3月11日。
添田は1994年生まれ。日本とロンドンでアートを学び、アジア諸国の市場で売られるチープな玩具や、街で散見される作者不明のキャラクターにインスピレーションを受けた作品を発表してきた。こうしたモチーフを選んできたのは、サブカルチャーの文脈においても評価されないそれらのキャラクターに、自らも含めた「声なき弱者」の怒りを代弁させるためだという。
添田は「キャラクターの世界には、出自や消費のされ方を根拠とした、ある種の階層構造が存在している」と考察している。その頂点にはアメリカのポップカルチャーから生まれた国際的に有名なキャラクターが君臨し、それらのフォロワーが下層の構造を形成する。添田は、この序列の最下層にいる有象無象のキャラクターに焦点を合わせる。
露店にならべられた有名キャラクターの非公式で表面的なコピーや、街角の看板に唐突に登場する記号としての意味しか持たないキャラクターなど、多くの人にとって興味の対象にすらならないものに、添田は権威に従属する弱者や社会に取りこぼされた人々の姿を重ねてきた。
制作において添田は、世界中で見つけたキャラクターを分解し、感性のままに再構築するという独自の手法を用いる。チープさと匿名性を強調しながら、なかばランダムに姿形を生成する方法は、実際に添田が目にした表面的で粗雑なキャラクターの生産を踏襲しており、また平面的にそれらを配置することでチープさへの徹底的な敬意と礼賛を表している。
今回の個展「I’m fine」で、添田は怒りに身をゆだねた過去の表現から一歩前進し、激しい情動と社会性の調和を模索したという。新たに発表される作品では、睨みつける視線は依然として内的な怒りや叫びを感じさせるものの、淡く彩られた背景やぎこちないながらも他者への歩み寄りを感じさせる表情が、和解の兆しを想起させる。
本展に際して、添田は次のようにコメントしている。「怒りのパワーは底知れない。私はずっと、何かを主張するために『怒り』は燃料として必要だと考えてきた。でも、そろそろ怒った先を考えなくちゃいけない……。私が、私の周りの大切な人たちが出来るだけ傷つかずに生きるにはどうすればいいんだろう。そんなことを考えながら制作した」。
キャラクターを通して抑圧された感情を解放し、赤裸々な意思表明を行う添田の作品。この機会にその魅力に触れてみてはいかがだろうか。