なら歴史芸術文化村がオープン。体験を通じて文化の奥深さと継承の大切さを学ぶ

歴史、芸術、食と農といった奈良の文化に触れることができる「なら歴史芸術文化村」が3月21日に天理市にオープンする。

文化財修復・展示棟イメージ

 奈良県の誇る歴史、芸術、食と農などの文化に触れることができる「なら歴史芸術文化村」が、3月21日に天理市にオープンする。

 「なら歴史芸術文化村」は、文化財修復・展示棟、芸術文化体験棟、交流にぎわい棟、情報発信棟の4つの建物と屋外体験ゾーンで構成された施設。「『なぜ』が芽生える。『知る』を楽しむ」をテーマに、様々な展示やプログラムを実施していく。以下、各棟の特徴を紹介したい。 

文化財修復・展示棟

 文化財修復・展示棟は、仏像等彫刻、絵画・書跡等、歴史的建造物、考古遺物の4分野の修復工房を1階とB1階にて通年公開。パネルと映像で修理の工程や技術をわかりやすく解説し、随時ナビゲーターによる案内も行われる。

修復工房見学ルームのイメージ

 絵画・書跡等修復工房では、ともに奈良県指定文化財となっている《栄山寺文書》(平安~江戸時代、奈良・栄山寺蔵)107点と、《紺地金銀泥両界曼荼羅図》(鎌倉時代、奈良・南法華寺[壺阪寺]蔵)2幅などが修理される。

 《栄山寺文書》は藤原南家の祖、藤原武智麻呂が創建したとされる栄山寺に伝来した古文書群で、寺院経営や政治権力との関係を知ることができる史料などからなる。欠失や破損が生じている箇所への補紙・補強、折れや皺の改善など、安全な取り扱いが可能になるよう修理を行う。

元中元年十一月十五日付後亀山天皇綸旨 南北朝時代 元中元年(1384) 奈良・栄山寺蔵

 《紺地金銀泥両界曼荼羅図》は密教の世界を表す金剛界と胎蔵界からなる一対の曼荼羅だ。紺色の絹に金銀泥を用いて描いた希少な作例で、図様は良好な状態で残されている。しかしながら、画面全体に横方向のきつい折れなどが生じているため、表装を解体して裏打紙をすべて取り替える本格修理を実施する。

紺地金銀泥両界曼荼羅図 金剛界 鎌倉時代 奈良・南法華寺(壺阪寺)蔵
同(部分)

 ほかにも仏像等彫刻修理工房や考古遺物修復工房、歴史的建造物修復工房で奈良県ゆかりの文化財が修理される。

 また、同棟の1階デジタルギャラリーでは奈良県内の文化財に関する動画アーカイブと、奈良県が所蔵する建造物の図面等のデータベースを自由に閲覧することが可能。さらにB1階の企画展示室、特別展示室では年5~6回の企画展が実施される。

芸術文化体験棟

 芸術文化体験棟では、アーティスト交流、幼児向けアートプログラム、ホールを活用した音楽、伝統芸能体験プログラムを実施。国内外からアーティストを招き、滞在制作や展示、ワークショップなどを行うとともに、幼児向けアートプログラムではイタリアのレッジョ・エミリア・アプローチを参考にプログラムを展開する。

体験プログラムのイメージ

 芸術文化体験棟には272席を備えたホールもある。ここではリサイタルや公演の開催も可能。また、セミナールームは会議や研修、各種講座などに利用でき、3階の交流ラウンジは誰もが利用できるとともに、東乗鞍古墳、西乗鞍古墳などの景色を一望できる。

交流にぎわい棟

 交流にぎわい棟は、奈良県産の食材を使った料理が味わえるレストランのほか、県産農産物や伝統工芸品などを販売する直売所、シャワー室を備えたサイクルステーションを用意。

レストランのイメージ
直売所のイメージ

 2階には実習室や多目的室もあり、奈良県の食と農について歴史や文化的背景を交えて体験しながら学ぶことができる講座や料理教室などを定期的に開催する。

情報発信棟

 情報発信棟は道路交通情報に加えて、奈良県全域の歴史文化資源や観光などの情報を発信するとともに、コンシェルジュを配置し、観光案内・施設案内を行う。また、棟内のトイレと授乳室は24時間利用可能だ。

情報発信棟のイメージ

オープニングイベント

 オープニングイベントも注目だ。美術家・黒田大スケが、屋外体験ゾーンや館内各所にて、新作を含む展示「もぐら、二つの海」(3月21日~5月8日)を開催。また同期間には、「文化村クリエイションvol.1 黒田大スケ」(3月21日~5月8日)として、滞在制作を行う。冬に予定する展示に向けて、芸術文化体験棟 スタジオ303を拠点に、リサーチと制作を進める。

黒田大スケ《三つのカゲ、彼の罪》(2021)

 その土地に確かに存在するが、忘れさられ無視された幽霊のような存在を見出し、作品をつくってきた黒田。スタジオは基本的に公開しているため、奈良を作品化していくその手つきと思考に触れることができる。

黒田大スケ《彫刻に聞く》(2017)

 また、芸術文化体験棟の交流ラウンジではアーティストの土佐尚子による、弥勒菩薩をモチーフとした作品展示「弥勒と声聞」「弥勒テーブル」(3月21日〜5月29日)が行われる。

土佐尚子の作品イメージ

 文化財修復・展示棟では、なら歴史芸術文化村 開村記念特別展「やまのべの文化財 ~未来に伝える、わたしたちの至宝~」(3月21日~4月17日)を開催。同館が立地する「やまのベ」地域の文化財を取り上げ、その魅力を紹介するとともに文化財を守り伝えてきた人々の想いに迫る。文化財を未来に継承していくための新たな試みの数々にも注目したい。

 さらにオープニングに合わせて、ダムタイプの代表で奈良県出身の高谷史郎とライゾマティクス代表の真鍋大度のふたりによる、「アートの可能性を探る」をテーマとしたトークセッションのほか、幅広い分野でトークイベントなども実施する。

 また、4月19日からは滞在アーティストの公募が開始。世界が誇る歴史・芸術・文化の魅力が沢山あり、その魅力を存分に使って制作活動を行うアーティストを募集する。

 歴史ある奈良の文化を、いかに次世代へと伝えていくかという視点を含め、様々な体験を通して感じられる施設。記念すべき開館に期待が高まる。

編集部

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