美術手帖 2020年4月号「表現の自由」特集
「Editor’s note」

『美術手帖』 2020年4月号の特集は「『表現の自由』とは何か?」。本誌編集長・望月かおるによる「Editor’s note」です。

 

『美術手帖』2020年4月号特集「津田大介インタビュー」より

 昨年8月1日から約2ヶ月半にわたって開催された「あいちトリエンナーレ2019」は、メディア・アクティビストの津田大介芸術監督のもと、ジャーナリスティックな視点を含んだ芸術祭として打ち出された。だが開始早々に、《平和の少女像》を展示していた一企画「表現の不自由展・その後」に対して河村たかし名古屋市長からは中止要請が、菅義偉内閣官房長官からは「補助金の交付」を再検討する旨の発言が突きつけられた。脅迫、テロ予告を含む抗議電話なども殺到したため、大村秀章愛知県知事と津田芸術監督は安全上の理由から同企画を中止した。これを受けて参加作家たちは展示取り止めや改変、また「ReFreedom_Aichi」プロジェクトを立ち上げるなどの行動をそれぞれ起こし、芸術監督や事務局とも連携しながら、全面再開を目指す流れをつくっていく。ところが、再開の方向性が見えてきた矢先、同トリエンナーレ自体への補助金不交付を文化庁が発表。閉幕7日前に展示は全面再開したが、ひとつの芸術文化事業に対し、政治介入がなされたという事実はいまも残ったままだ。

 国内外の歴史を見渡せば、美術表現にまつわる規制や検閲は、あらゆる時代と地域で繰り返されてきた。「表現の自由」の境界線がどこに引かれるかは、そのときの時勢や政治動向に左右される。世界的に歴史修正主義の流れが強まるいま、この国で美術をつくり、伝え続けるためにできることはなんだろうか。そうした視点から本特集を組み始めた。

 まずは規制や検閲を受けた場合、萎縮せずに乗り越えていく方法として、アーティストたちの実践の数々や、アメリカでつくられた検閲を回避するためのマニュアルを紹介する。そして今回の事件の背後にある諸問題─美術の社会における存立や、現代美術を教え、伝える機関や制度における課題について、できるかぎり多様な論点や提案を明示することを試みた。

 今回の特集ではトリエンナーレ事務局と不自由展実行委員会とのやり取りや、内部の詳細について、当事者に取材し検証するまでには至らなかった。いまだ声を上げていない参加作家や、学芸スタッフ、広報担当やボランティアにも、それぞれの立場でこそ見えた現実があるはずだ。こうした声を引き続き取材するとともに、文化を支える現場において、同じことの繰り返しや不要な自粛、そしてこれ以上の政治介入を許さないよう、継続的な議論の場を今後も開いていきたい。

2020.03
本誌編集長 望月かおる

『美術手帖』2020年4月号「Editor’s note」より)

編集部

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