NEWS / HEADLINE - 2019.8.30

日本初開催。ICOM(国際博物館会議)京都大会で「Museum」の定義が変わる?

世界各地の美術館・博物館関係者4万人以上が加盟する、世界で唯一のグローバルな博物館組織ICOM(アイコム、国際博物館会議)。その3年に1度の大会が、今年京都の国立京都国際会館をメイン会場に、日本で初めて開催される。25回目となる今回の注目すべきトピックスとは何か?

 

ICOM京都大会の会場である国立京都国際会館

 ICOM(International Council of Museums;アイコム、国際博物館会議)の存在をご存知だろうか? ICOMとは、第二次大戦後の1946年に発足された組織であり、現在世界唯一のグローバルな博物館組織。世界138の国と地域から、4万1677人の美術館博物館のエキスパートと3009館が会員として登録しており、118の委員会、30の国際委員会を擁する巨大組織だ。

 その主な目的は、各地の博物館およびその専門家が倫理的基準も革新的実践について話し合い、交流するための場の提供や、ミュージアムを取り巻く様々な問題について議論・提言するシンクタンク的な機能など、多岐にわたる。

 このICOMでは、1948年にパリで行われた第1回以来、3年ごとに大会を実施。25回目となる今年はアジアでは3回目(2004年ソウル、2010年上海)、日本では初めてとなる大会(以下、京都大会)が国立京都国際会館で開かれる。

注目は「Museum」の定義改正

 「文化をつなぐミュージアムー伝統を未来へー」をテーマに掲げる京都大会では、115の国と地域から4145名の会員が参加。この数字は大会史上最多であり、日本人参加者も1681名と過去最多となっている(数字は8月28日現在)。

 この京都大会で、まず注目すべきトピックが、「Museum」定義の見直し(ICOM規約改正)だ。博物館法などを持たない国のミュージアムはICOMによる定義を参照しており、その変更は世界のミュージアムの活動に大きく影響を与える。

 ICOMによる「Museum」の定義は、1946年に制定されたICOM憲章で初めてなされ、当初、その第2条においては以下のように定義されていた。「ここにいう博物館とは、公開することを目的とする芸術、科学、技術、歴史および考古学資料のすべての蒐集品と、動物園、植物園を含むものとする。ただし、常時の展観室を備えていない図書館を除く」。

 ICOM憲章は51年にICOM規約として改称され、ミュージアムの定義については1961年、1974年、1989年、1995年、2001年、2007年の6回にわたって改正。これまでの改正点は以下の通りとなっている(ICOM日本の資料より)。

1951年(ICOM規約)
博物館の目的に、「公衆の娯楽と教育に資するための公開」を並列で追加。

1961年
博物館の目的に、「研究」「教育」「楽しみ」を並列。それを実現するための博物館機能として「保管」「展示」を位置付け。

1974年(コペンハーゲン大会)
博物館の目的に、「社会とその発展に貢献するため」を追加。機能として「収集」「保管」「調査研究」「コミュニケーション」および「展示」を並列で追加。

1989年(ハーグ大会)
別条であった博物館の目的と機能をひとつの条文に統合。「博物館の定義は、各機関の管理機構の性格、地域の特性、機能構造、または収集品の傾向によって制限されない」旨を追加。

1995年(スタヴァンゲル大会)
博物館とみなす対象に、「博物館および博物館学に関する保存、研究、教育、研修、ドキュメンテーションその他の活動を行う非営利の機関または団体」または「国際単位、国単位、地域単位または地方単位の博物館団体、博物館を所管する省庁または公的機関」を追加。

2001年(バルセロナ大会)
博物館とみなす対象として、「図書館および公文書センターが常時維持する資料保存施設および展示ギャラリー」を「非営利の美術展示ギャラリー」に変更。新たに「有形または無形の遺産資源(生きた遺産およびデジタルの創造活動)を保存、存続および管理する文化センターその他の施設」を追加。

2007年(ウィーン大会)
規約を全体的に簡略化。博物館とみなす対象を列挙せず、博物館の定義のみの規定とした。

第3章 定義
第1条 博物館
博物館とは、社会とその発展に貢献するため、有形、無形の人類学の遺産とその環境を、教育、研究、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する公衆に開かれた非営利の常設機関である。

 そして今回、ICOMは2007年大会において定義された第1条を改正することを予定。現在の定義は74年の改正をベースとしており、今回の改正が実現すれば45年ぶりの大幅改正となる。

 ICOMは定義改正のために17年1月にMDPP(博物館の定義、見通しと可能性に関する委員会)を設置。新たな定義(案)は以下の通りとなっている。

博物館は、過去と未来についての批判的な対話のための、民主化を促し、包摂的で、様々な声に耳を傾ける空間である。博物館は、現在の紛争や課題を認識しそれらを対処しつつ、社会に託された人類がつくった物や標本を保管し、未来の世代のために多様な記憶を保護するとともに、すべての人々に遺産に対する平等な利用を保証する。

 

博物館は、営利を目的としない。博物館は、開かれた公明正大な存在であり、人間の尊厳と社会正義、世界全体の平等と地球全体の幸福に寄与することを目的として、多様な共同体と手を携えて収集、保管、研究、解説、展示の活動ならびに世界についての理解を高めるための活動を行う。

 しかしながら、これが公開されるや議論が続出。主にヨーロッパから「あまりに政治的ではないか」「定義ではなく前文だ」などの意見が噴出し、賛否両論の状態となっているという。

 この定義は、京都大会の最終日である9月7日に臨時総会で採決される予定だが、現時点で5つの国際委員会、24の国内委員会から採決延期の意見が出ており、今大会で可決されるかどうかは現時点で不透明な状況となっている。

日本発の大会決議案

 京都大会のもうひとつの大きなトピックは、大会決議文(Resolutions)だ。

 ICOMでは大会毎に決議文(拘束力はなし)が採決されることになっており、今大会では最終的に6本の決議案が提出。そのうち2本はICOM日本が提出したもので、「The Integration of Asia into the ICOM Community(アジア地域のICOMコミュニティへの融合」と「Commitment to the Concept of ‘Museum as Cultural Hubs’(「Museum as Cultural Hubs」の理念の徹底)」となっている。

 とくに後者については、ミュージアムを国家的、地理的な境界を超越できる能力を持つもとのとしており、これからの時代におけるミュージアムのあり方を問うものとなっている。

 なおこのほか、今大会では新たな国際委員会として「博物館防災国際委員会」が「災害対策委員会」から再編成されるかたちで発足。また、ICOM大会初となるマンガ・セッションとして「マンガ展の可能性と不可能性」が行われるなど、日本での開催ならではの要素も見られる。7日間の大会を通じて、どのような議論が尽くされるのか、注目したい。