新アワード開催 審査員・三潴末雄が考える絵画のマーケットとは

絵具メーカーのターナー色彩が、アクリル絵具を用いた作品の公募展「アクリルガッシュ ビエンナーレ 2016」を新たに開催した。国際的な舞台に挑む画家を支援するコンペティションに先がけ、審査員を務めるミヅマアートギャラリー代表・三潴末雄に、2回にわたって話を聞く。前編の本記事では、三潴の目に映る世界のマーケットに迫る。

聞き手・構成=山内宏泰

「アクリルガッシュ ビエンナーレ 2016」の審査員を務める、ミヅマアートギャラリー代表・三潴末雄

 三潴末雄は、主宰するミヅマアートギャラリーで多くのペインティング作品を扱っている。アーティストの用いるメディウムやメディアが多様化しているなか、古くからあるペインティングという手法に関心を寄せ続けるのはなぜだろうか。

「世界中で見つかっている太古の洞窟壁画からもわかるように、食糧など生存に必要な情報を仲間や次の世代に伝えるといった人類にとって重要な役割を、絵画は担ってきました。それだけでなく、ものを写したり自分たちの姿を絵でとらえる行為は、何か人間の根源的な欲求にも関わっているのでしょう。そのため絵画は、どの地域でも大いに発展してきました」。

 ほかにも、人の手で愚直に生み出されていくものである点に、三潴は絵画の強さを見出す。

「どんな素材を用いるにしても、ひと筆ずつ手を動かして仕上げていくのが絵画。そこに面白さが生じるのだと僕は思っています。いまはインターネット上の検索エンジンにかければなんでも調べられて、そのエンジンを『先生』呼ばわりして頼り切っています。しかし、それでは誰もが同じ結論にたどり着くだけです。思考のプロセスは残らないし、葛藤も生じない。やはり、自らの目で見て、外に出ていかないかぎり、人を揺さぶる表現は出てこないのではないか。ひと筆ずつ身体を駆使して描き進めていく絵画は、時流からは外れているのかもしれないけれど、この時代に何かを生み出す可能性はあるように思えますね」。

マーケットに流れる一神教的価値観

 いっぽうで絵画は、たどってきた歴史の過程で何度も「絵画は終わった」などと宣言され、「殺されかける」目に遭ってきたのも事実だと、三潴は言う。

「例えば19世紀に写真術が誕生すれば、写実は写真のほうが正確なのだから、絵画はもう役割を終えたと言われた。ビデオアートやインスタレーションが盛んになれば、動きがなく平面でしかない絵画などもう死んだとされ、インターネットが市民権を得た現在でも、絵画はなんて弱い表現形式だと名指しされる。でも、何度殺されかけても、絵画は決して死なずに生き延びていく。そんな不思議な存在感に、興味が湧くんですよ」。

 では、アートマーケットにおけるペインティングの位置づけはどのようなものか。インスタレーションや映像作品に比べ、落ち着きを見せているのではないだろうか。

「そんなことはないですよ。いまだって確固たる地位を占めているとは思います。ただし、ある種の偏りは見てとれます。現在の絵画は、抽象表現が圧倒的に幅を利かせているのです。この理由ははっきりしていて、アートマーケットの中心が欧米だから。キリスト教にしてもイスラム教にしても、彼らの中心的な考え方は一神教的であって、偶像崇拝を嫌います。それに、新しい顧客層である金融関係のエスタブリッシュメントは、たいてい数字を追いかけて疲弊している。プライベートで触れるアートには意味や具体性を求めず、どちらかといえば漠然と眺めていられる抽象的な作品を好む傾向があります。私のギャラリーにいる会田誠や山口晃、天明屋尚といったアーティストは、面白い作家であるのは間違いないけれど、いずれも具象的な作品をつくります。世界のアートマーケットでいちばんの売れっ子に、なかなかなれない所以です」。

 だが、マーケットにおける潮目は変わっていくもの。日本の画家に、チャンスが訪れないわけではない。

「まさにそこで、世界は常に変化しています。英国のEU離脱に見られるように、統合の流れは早晩弱まる気配です。一神教的世界観が支配する世の中は、そう長くは続かないのではないか。改めて各国の地域性が見直されるようになるはずです」。

そのときにはアジアの持つ価値観がヒントになる、と三潴は示唆する。

「例えばインドネシアは、イスラム教なのに、ヒンズー教や仏教も根づいています。日本はもっと混沌としていますよね。いろんな宗教が混じり合う寛容さがある。そういうのは、すばらしい思想だと思うのです」。

後編では、アジアの可能性やこれからの絵画の方向性について、探る。

PROFILE

みずま・すえお ミヅマアートギャラリー代表。東京生まれ。1994年にミヅマアートギャラリーを開設。会田誠や山口晃など日本を代表する作家を多く扱う。北京やシンガポールにも展開し、アジアを中心とする国際的なアートシーンに紹介している。

編集部

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