「大きな運動」を自分のスケールにー表良樹
表良樹は1992年大阪生まれ。2014年に京都造形芸術大学を卒業、16年に東京藝術大学大学院美術学部先端芸術表現専攻を修了し、現在は同大学院で教育研究助手を務めている。最優秀賞を受賞したCAF賞では、地質学用語で岩石圏の運動を意味する《Tectonics》を発表。ポリタンク等の容器を型取りし、そこにポリエステル樹脂と油絵具を混ぜた素材を流しこみ、積層させ、破壊した。京都造形芸術大学時代に彫刻を学んでいた表は「彫刻は彫ったり、練ったりしても、最終的にできるのは表面。その中身を表すことは難しくて、彫刻の中身や奥を想像するということを考えました」と語る。そこに確かに存在するが、ふだんは気にも留めない彫刻の内側。《Tectonics》はこれを文字どおり暴露した作品だ。
選抜展では、2014年の大学院1年生時につくったものを再制作し、《〈旅する山〉プロジェクト2016》として発表した。「大学院に入学してすぐに、学内展に出品する作品を制作しなくてはならなかったんです。京都にいたときは山に囲まれていて、自分の立ち位置がはっきりしていた。でも大学院のある茨城県取手市は空が広くて、環境が全然違う。天気のいい日に見える筑波山が美しいんですね。その広大な景色に対して、自分の造形物を介して近づけないかと考えたのがこの作品です」。作品が、自身と山とをつなぐ"インターフェイス"の役割を果たす。
しかし、当時制作したものは一度解体し、破棄してしまったという。「そのときは衝動的なものだったので。でももう一度やりたいなと考えていて、今回かたちを変えて制作しました。フォルムは銀閣寺の庭にある向月台と、遠くから見た筑波山のかたちを抽象的に重ね合わせて造形しました」。
大きな運動や成り立ちを、自分の日常的なスケールに変えていくことが表の軸になっている。大学院では日本庭園や庭の造形を研究していた。「日本庭園は、自然の風景を造形する、という文化で、限られたスペースのなかでどれだけ大きなものと結びつけるかという技術がある。その要素を自分の作品に取り入れたいと考えています。時間や空間は情報として知ることができても、実感するのは難しい。モノをつくり、そのモノを通して、それらを確認したいと思います。自分の身体を通して得た感覚をもとに、モノをつくることが大事」。
今回の《旅する山》は表にとって、単体の作品ではなく「プロジェクト」だという。「タイトル通り、これからこの作品をいろいろな風景に介入させて、作品自体も変化させていきたい」。時間的、空間的な広がりをどこまでも追求する。
一期一会を描きとるー井田幸昌
井田幸昌は1990年生まれ。2016年に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業し、現在は同大大学院に在籍している。CAF賞では「一期一会」をテーマに、その日に出会った人々の肖像を、その日のうちに描く「The end of today」シリーズで名和晃平賞を受賞した。「時間は常に流れていて、変化しないものはこの世には無い」「同じ物事を見ることは今この時しかありえない」という考えを軸に、作品を描いている。
「もともとすごい早描きで、初期衝動というか人や物に出会った生な感情を忘れないうちに、残したいというのがきっかけでした」。制作を始めたのは2015年。「時間の制約を加えるとできることが限られて、作品がそれによって変化してくる。自分にとって一番グッとくるのが人なので、人物画の割合が多い」。
絵を描き始めたのは、美術家である父親の影響が大きいという。「高校時代、素行が悪くて、どうやったら人と接することができるかと考えたときに、身近にあったのが美術だった。最初は軽い気持ちで始めたんですが、やっていくうちに、その奥深さに気づきました。それが高校2年生のときですね。人と上手くコミュニーケーションが取れずに素行が悪くなってたんですけど、それって裏返せば人に執着しているということじゃないですか。だから昔から人の絵を描いています」。
同じ瞬間は二度と来ないというごく当たり前の、しかし日常的には意識しないことに目を向ける井田。「一期一会を突き詰めて考えていくと、瞬発力とか瞬間性みたいなものが必要だろうと思って、このシリーズになっています」。
今はペインティングを主軸にしている井田だが、立体にも興味があるという。「父親も兄も立体作家だから、その影響が大きい。油絵具を盛るこの感覚も、そういうところからきている。でも絵とは勝手が違うので、悪戦苦闘しています(笑) もっといいアーティストになりたいし、目の前の目標を全力で一つひとつクリアしていきたい。一歩一歩が大事かなと思っています」。人とのつながりを大切に描きとる井田は、日々と丁寧に向き合っている。