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2016.6.25

映像の「時間」でモンタージュする空間 山城大督インタビュー

映像の持つ「時間」の機能に着目し、空間において「再現可能な体験」の展示を試みてきた山城大督。森美術館(東京・六本木)で開催中の「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」では、展示空間に映像と劇場のメソッドを展開させた画期的な手法で作品を発表している。新たな表現方法を探究する作家に、作品制作の背景と今後の展望について話を聞いた。

「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」での展示風景
山城大督 トーキング・ライツ 2016 ミクストメディア、インスタレーション 14分 Courtesy of IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya 撮影=永禮 賢 写真提供=森美術館
※詳細クレジットは文末を参照
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──今回「六本木クロッシング2016展」で発表した《トーキング・ライツ》(2016)は、展示空間にオブジェクトを配置したインスタレーションでありながら、照明や音響が施された演劇的要素を持ち合わせています。はじめに、このような表現方法に至った展開についてお聞かせください。

 これまで制作活動をしながら映像を探究しているなかで、「映像を空間化する」方法というのを見つけられるかもしれないと感じていました。その方法を過去作を通じて模索し、試作を繰り返しながら気づいたこと、生まれたことが今回の《トーキング・ライツ》の大きな下地となっています。

マルチ・チャンネルで見せる映像

 映像を展示で見せるようになったのは、2006年に結成した3人組のアーティスト・ユニット「Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)」(以下、Nadegata)で取り組んでいる市民と共同制作するプロジェクトで生まれるものを、その場にいなかった人に展示としてどうすれば届けられるのか、と苦悩した結果です。そうやって映像の展示を試みてきた末に、映画のような「シングル・チャンネル」ではない映像の展示方法があるということに気がつきました。

 東京都現代美術館でのグループ展「MOTアニュアル2012:風が吹けば桶屋が儲かる」でNadegataが発表した《COUNTRY ROAD SHOW》(2012)では、約20個のモニターとオブジェクトを設置してツアー型の映像展示を試みました。いちばん最初に「案内ビデオ」を見て、モニターに誘導されながら一つひとつの映像を見ていくと、約40分の作品を体験できる仕組みになっています。これは映像を椅子に座ってひとつの物語に没入させる映画館での見せ方ではなく、むしろアミューズメントパークのアトラクションを参考にしていて、博物館のように歩き回って記録物を見るという方が、しっくりくるのではないかと思ったからです。

 例えば、展示空間に約20個のモニターを並べたとしたら、どこから見てもいいし、あるいは全部見なくてもいい。さらに映像のみならず写真やテキストとともに配置すると、まるで森の中を散策するように異なるメディアを同時に歩きながら見ることができます。

Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子) COUNTRY ROAD SHOW 2012

照明でつくる時間軸

 展示空間でどうすれば「時間」を体験することができるのかという実験の結果生まれたのがアサヒ・アートスクエアの「Grow up!! Artist Project 2013」で制作した《イデア・デッキ》(2013)でした。そこで決定的にステップアップできたと思ったのは、照明の使い方です。劇場機能を持つアサヒ・アートスクエアは、専属の照明・テクニカルスタッフの大庭圭二さんのおかげで簡単に照明を動かすことができました。通常の展覧会では作品の設置を終えた後に照明をセッティングするのですが、劇場ではまず照明のセッティングから始まり、美術とは空間をつくり込む順番が逆になっています。

アサヒ・アートスクエアで開催された山城大督個展「VIDERE DECK/イデア・デッキ」(2013)の展示風景
山城大督 イデア・デッキ ミクスト・メディアインスタレーション 13分 Courtesy of IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya

 そのような劇場のメソッドを持ち込むことで「空間のなかに光を当てる」ことで時間軸をつくり出すことができました。なぜなら、暗闇のなかに光を当てたら、誰しも照らされた部分を注目します。また暗くなって違うところが照らされたら、今度はそちらに視線がいきます。そうやって光を当てる部分を切り替えることによって、映像でカットAからカットBに移るようなことが、空間でも実現できる。それならば、空間のなかに再生機のような「デッキ」をつくって、その空間に人が入るということによって再生される空間を体験することができると確信しました。

追体験する空間

 ちょうど子どもが生まれた頃に、子どもを通して何かを見たり、他者を感じたりするということがおもしろいと思い、「人間の感情」に着目して制作したのが《ヒューマン・エモーションズ》(2015)です。1歳、5歳、7歳の小さい子ども3人に展示空間に設定したあるシチュエーションに入ってもらって、8つのカメラを使い30分間ノーカットで撮影。それを実際の展示では、カメラと同数の8個のモニターでドキュメンタリー映像を流しつつ、撮影時の照明を再現し映像とシンクロさせています。この作品では「映像と空間」から飛躍して、空間内で生じた出来事や人の感情を展示で再現し、見る人が追体験するという、新たな空間の演出や映像展示の話法をつくり出しました。

山城大督個展「HUMAN EMOTIONS/ヒューマン・エモーションズ」(ARTZONE、京都 2015)の展示風景 
山城大督 ヒューマン・エモーションズ 2015 ミクスト・メディアインスタレーション 28分 Courtesy of IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya 撮影=表恒匡

──これまでの作品と比べ《トーキング・ライツ》はストーリー性が際立っており、より精度を高めた作品だと思いますが、意識されたことはなんでしょうか?

 今回の「六本木クロッシング」のようなグループ展で15分間の作品を展示するのは、かなりリスクのある挑戦だと思っていました。20組も参加しているとなると、時間を要する作品は飛ばされてしまう選択肢のほうが多いですから、そこをなんとか見てもらえるよう、これまでの訓練で培ってきた手法を駆使し、より高い完成度の作品を目指しました。大規模に照明やプロジェクターを吊るなど会場設備を最大限に活用したので、森美術館の展示スタッフの方にとても喜んでいただいたほどです(笑)。

──本作には、東日本大震災の影響があるとのことですが、どのようなつながりがありますか?

 震災発生直後は、私はこれといった反応はしていません。絵を描くなど、ゼロから何かをつくるタイプの作家だったら何かできたかもしれないのですが、私が扱っているカメラやビデオは「ゲット」していかなくてはいけないメディアなので、当時は誰かを撮るという選択はできませんでした。

 震災から5年が経過し、私も主体的な立場として震災以降の感情や体験を作品というかたちで発表したいと思いました。私自身の具体的なエピソードが含まれている訳ではないのですが、ずっと感じていた憤りのようなものを込めています。

「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」での展示風景。知人の女性のエピソードを語る、たどたどしい音声は山城の息子の声。発話がままならない頃、山城が話した音をオウム返しさせることによって、その音声を録音し編集した
山城大督 トーキング・ライツ 2016 ミクストメディア、インスタレーション 14分 Courtesy of IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya 撮影=永禮 賢 写真提供=森美術館

 私の知人の女性が民謡を歌ってくれているシーンがあるのですが、彼女は福島県双葉町出身でずっと避難生活を送っています。そのときに、なぜ彼女が避難しなければならないのか? その状況が生まれたことを、ずっと疑問に思っていました。作品内に登場する「あれから5年がたちました。実家は蕎麦屋で、父は髭をそりませんでした」というエピソードも、彼女の実話です。実際に彼女の実家は福島第一原発に近いところで蕎麦屋をやっていました。

 もちろん私個人の力で解決できないのはわかっています。だからといってこの事実を誰かに伝えたい、記録として残したいというのではなく、ただただ彼女の声とエピソードを作品に収めたいという思いが強くありました。今回は少しだけ希望的に終わらせることによって、ある種のレクイエムのような気持ちでつくっています。震災直後から今も続けている、彼女との対話は、もちろんこれからも継続していくことになります。

──作品に登場する「もの」のセレクトが絶妙だなと思いました。どうのように選びましたか?

 あの「もの」たちは、昔に私が拾ったものや、譲り受けたもの、骨董市で買ったものから選んでいます。登場人物たちは、デコボコで、キャラクター化されすぎず、でも変な存在感が出て、あまり使われずに古ぼけた、説得力のないヤツらをつくろうと思いました(笑)。

 なぜならば、もの自体に感情移入させるのではなく、時間に感情移入してもらいたかったからです。作品がリアリティーのあるドキュメンタリーにもならず、それでもなおコンセプチュアルな戯れに留まらない、ファンタジーに入り込ませることで見る人の感情を揺るがしたいと思いました。

「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」での展示風景。知人の女性のエピソードを語る、たどたどしい音声は山城の息子の声。発話がままならない頃、山城が話した音をオウム返しさせることによって、その音声を録音し編集した
山城大督 トーキング・ライツ 2016 ミクストメディア、インスタレーション 14分 Courtesy of IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya 撮影=永禮 賢 写真提供=森美術館

──今回は「もの」が主役の展示となっていますが、映像の要素はどのように取り入れられていますか?

 今回は、始まりがあって終わりはカタルシスで締めくくる、古典的な物語の構造になっています。これは映画や演劇のように時間を拘束するメディアを参照しました。また、映像技法「モンタージュ」を意識して構成をしています。モンタージュはひとつの時間軸のなかで複数のカットを組み合わせていくという、映像独自の技法です。モンタージュによってイメージとともに時間が積み上げられていく。その積み上げによってつくられたストーリーやスペクタクル、すなわち魔術的な視覚体験によって見る人を没入させることができる。このようにメディアアートで発達した技術を使って、メッセージを届けたいと思っています。

「センサリーメディア」の誕生

 最近、映像人類学者の川瀬慈(かわせ・いつし)さんとの交流をきっかけに、映像と人類学の関係に関心を持ちました。映像は、文化の記録や分析、保存をはじめ、研究の社会還元や教育の場に幅広く活用されてきたそうです。

 また興味深いと思ったのは、私が実践しているような展示方法が、近年では人類学研究の発表にも用いられているということでした。すなわちシングル・チャンネルの記録映像を流すだけではなく、複数のメディアやものを活用するインスタレーションという形式で発表することがあるそうです。これは「センサリー(感覚の)メディア」と呼ばれていて、視覚偏重主義的な研究のありかたに対して、人の多様かつ複雑な感覚の働きを軸に、文化の記録、表現を模索する形態です。《トーキング・ライツ》も国籍関係なく、見る人が物語として、あるいは現象として直感的に楽しむことができるという点で、「センサリー」とつながっているのだと思います。

「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」での展示風景
山城大督 トーキング・ライツ 2016 ミクストメディア、インスタレーション 14分 Courtesy of IPPONGI PRODUCTION, Tokyo and Nagoya 撮影=永禮 賢 写真提供=森美術館

 このことから、空間は映像よりもはるかに体験者への影響力が大きいということを感じました。映像はモニターを隠してしまうと見ることができませんが、空間ではあらゆる角度から見ることができます。そんな圧倒的な情報量を誇る空間で、映像で培ってきた技術を応用することができたら、さらなるイリュージョンが期待されるでしょう。

──最後に、今後の展望をお聞かせください。

 今回、アサヒ・アートスクエアの《イデア・デッキ》からテクニカルでサポートしてくれている時里充さんが、映像、照明、音響、そしてものを動かすモーターをズレずに一括して再生するオリジナルの上映システムをプログラムしてくれました。最近は異なるメディアを連携させて再生する作品の制作が増えてきているので、この上映システムを誰でも使えるプラットフォームとして共有し、将来の「タイムベースメディア」の環境の向上につなげることができたらいいと思っています。

 うれしいことに今作は国内外さまざまな反響があり、展示の声がかかっています。しかしその反面、《トーキング・ライツ》のような作品の所蔵や売買の仕組みが確立されていないので、それを考えるのが今後の課題です。

 私の作品は多くの人が関わる映画づくりのように制作していて、私はどちらかというと「監督」や「コラボレーター」として活動する方が得意です。将来はこれまでの実践を活かして舞台・空間演出に挑戦したいです。でも、一方で映画にも取り組みたいですね。映像を映画館ではなく、明るい環境下で見たりスマホで見たりなど、視聴体験が多様化している現代で、もう一度原点に立ち返って映像というものを探究してみたいと思っています。

※山城大督《TALKING LIGHTS / トーキング・ライツ》 クレジット
監督:山城大督

出演:石垣真帆、新見永治、前田香織、山城丗界、大村美結、柿迫渉、田中暁子、長野真央、松本涼乃
音楽:原 摩利彦 (Scene.04)、安野太郎 (Scene.07)、五嶋英門 (Scene.02)、飛谷謙介
(Scene..03) 詩:谷川俊太郎「芝生」(Scene.07)
(『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』より1975 翻訳:W.S.マーウィン、連東考子)

上演システム:時里 充(TOKISATO PLAYER)
ハードウェア設計:岩田拓朗
テクニカルサポート:ひつじ
コンストラクター:青木一将(ミラクルファクトリー)
照明アドバイザー:大庭圭二(RYU)、山下恵美(RYU)
ビジュアルプログラミング:林洋介 (Scene.04&07)
音響:鶴林万平(ソニハウス)
英訳:奥村雄樹
英訳校正:グレッグ・ウィルコックス
キューレーター:荒木夏実
プロダクションマネジメント:野田智子(IPPONGI PRODUCTION)
制作協力:株式会社 流、ソニハウス