日本で発行される年間約40種の切手は、日本郵便の切手・葉書室所属の切手デザイナー8名(2023年3月現在)によって生み出されている。日本全国、誰でも一度は見たことがある切手はどのようにデザインされているのか。癒しを感じさるイラストの切手から「美術の世界シリーズ」まで手がける最年少切手デザイナー・楠田祐士へのインタビューを通して紹介する。
後編では、「ふみの日」切手のこだわり、切手の楽しみ方、そして切手デザイナーという仕事について聞いた。
コロナ禍を挟んで手掛けた3年分の「ふみの日」切手
──前編では「美術の世界シリーズ」について伺いました。このほかにも思い入れのある切手があればお聞かせください。
2019年から3年間担当した「ふみの日」切手ですね。日本郵便では毎月23日を「ふみの日」と定めていて、文月にあたる7月の23日には手紙文化の振興などを目的とした「ふみの日」切手を発行しています。
長いこと「手紙を書きませんか」というコンセプトでつくられてきた切手ですが、担当していた当時は「手紙を書くことを特別視してほしくないな」と思っていました。むしろ、普段の生活に自然と手紙が溶け込んでほしいと。「ふみの日」はきっかけになってほしい日ではあるけれど、それ以外の日にも気軽に書いてもいい。そういうイラストにしたかったんです。
2019年は、手紙って昔からある文化だなと思い、大正レトロのような雰囲気を出しました。2020年のものは「丁寧な暮らし」という感じで、絵のタッチにも差をつけています。
──2021年の切手は、ひときわ夏らしいですね。
当時はコロナ禍でずっと室内にいたので、「風を感じるようなものにしたい」という欲求に駆られていました。銭湯やカフェに行くのも大変だった時期ですから、手紙の中だけでも、お出かけしてほしいなという気持ちで。
63円は風景、84円のシートは全部建物にして、大きいヘルメットをかぶって自転車に乗っている少年がいるような、そういう自分が育った田舎での原風景を思い出しながらつくりました。
──切手にもトレンドや世相の反映があるんですね。2020年の切手でも、63円のシートと84円のシートに関係というか、時差がありますね。63円では洗濯物が干してあって、プラムみたいな果物がある。84円では、アイロンが置いてあって果物は瓶詰めになっています。これは、セットで物語になっているとか?