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2019.12.4

アーティストとともに成長し続ける。ヨハン・ケーニッヒが語るギャラリストのあるべき姿

11月9日、ベルリンを代表するケーニッヒ・ギャラリーが、アジア初のスペースを東京・銀座の「MCM GINZA HAUS I」にオープンした。オープニングのために来日したギャラリーの設立者であるヨハン・ケーニッヒに、ギャラリーのプログラムやギャラリストのあるべき姿について話を聞いた。

聞き手=編集部

ヨハン・ケーニッヒ
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──ケーニッヒ・ギャラリーは昨年、上海で地元ギャラリーとの共同アートプロジェクト「Condo上海」に参加しましたね。上海のアートマーケットが近年急速に成長するなか、なぜアジア初のスペースを東京に開いたのでしょうか?

 私たちは約10年前、東京で「Villa Tokyo」というギャラリーコレクティヴのプロジェクトに参加しました。私にとって、日本社会やそのアイデンティティは中国より身近なものなのです。もちろん、政治やお金の禁輸などの要因もあります。中国において商売をするのは容易ではありませんからね。

 私たちの活動は、オーストラリアやニュージーランド、さらにタスマニアさえも含めて、よりアジア地域全体に向けてリーチするものだと考えています。そういう意味で、私たちが銀座にいることはとても良いことなのです。

 銀座はとても忙しくて活動的で、ロケーションも良い。だからこそ日本のコレクターだけではなく、中国本土のコレクターも訪れてくれます。彼らは香港よりも東京を好みます。自由で安定した経済と社会を日本は持っていますから。

──日本人のコレクターはなかなかアート作品を買わないとよく言われていますが、そんななかでケーニッヒ・ギャラリーはどのような販売戦略を立てていますか?

 私たちの戦略はいつも美術館による作品購入です。そして美術館や鑑賞者を通して、アーティストに対する評価を得ることです。例えば私たちは、「Villa Tokyo」でアリシア・クワドの作品を展示しました。それからアリシアは瀬戸内国際芸術祭やポーラ美術館の展覧会に参加したりしています。イェッペ・ハインもそうで、豊島美術館で大規模な展示をしました。

──こけら落とし展をユルゲン・テラーの個展にした理由はなんですか?

 彼は日本ですでに名前が知られていますから。ファッションハウスのギャラリーで行われる展覧会ですから、アートとファッションの架け橋を築くような、良いコンビネーションにもなると思ったのです。

ヨハン・ケーニッヒがケーニッヒ東京のオープニングにて

──東京スペースにおける展覧会ラインナップについて教えていただけますか? すべてベルリンを拠点とするアーティストになるのでしょうか?

 次回はリヌス・バン・デ・ヴェルデの個展を開催しますが、このスペースでは日本にまだ存在していないような芸術的な実践を持ち込みたいと思っています。そのほうが面白いですから。アンセルム・ライルやアリシア・クワド、ノアバート・ビスキー、そしてカタリーナ・グロッセなどもそうでしょう。

 ベルリン拠点の作家を紹介するのは、私たちが得意とするからです。この場所は来年の終わりまでの期間限定ですから、一定のグループの作家に焦点を当てる必要があるのです。

 ただ、一言で「ドイツ」と言っても様々で、私たちのギャラリーには「ドイツの作家」ですが実際にはドイツ人ではないアーティストが多くいます。アリシア・クワドはポーランド出身ですし、エルムグリーン&ドラッグセットも、ノルウェー人とデンマーク人です。アイデンティティがとても広義なのです。

──日本やアジア人のアーティストをヨーロッパのスペースで紹介する予定がありますか? また、ケーニッヒさん自身はどのような作家が好きなのでしょうか?

 ぜひしたいです。この期間を使ってヨーロッパで展示できるような日本の作家を探したいと思います。私たちのプログラムは作家主体なので、どんなメディアでも大丈夫です。私自身は、絵画や彫刻、そしてドローイングなど、マルチなメディアで作品をつくる作家を好みます。多産だとより良いですね。

 日本人の作家で言うと、河原温は私の父と近しい友人でした。私自身も彼の作品を持っています。彼は子供の頃の私にとってとても重要な人物でした。休日もいつも一緒に過ごしたくらいです。じつは、ピーター・ドレーアーと河原温の展示を行うことも考えているんですよ。

ケーニッヒ東京の展示風景

──ここのスペース以外で、最近手がけている新しいプロジェクトはありますか?

 いまはコラボレーションを行う可能性を探ることに注力しています。ファッションレーベルなど、どんなコラボレーションでもいいんです。最近、我々は雑誌とのコラボレーションをスタートさせ、部数限定の雑誌や新聞をつくりました。

 コラボーレーションのアイデアは異なるネットワークを提供してくれるし、「共有」も可能です。共有する、ということはとても素晴らしいことですよね。場所の共有、アイデアの共有、リソースの共有......ベルリンでは、とても広大な空間を持っていて、その場所を他の人々と共有していますから、彼らはイベントを行うことができる。そのおかげで、新たなお客様がその場所に来てくれるのです。

──「アートをファッションなどとミックスさせすぎると、その芸術性がなくなってしまうのではないか?」そういう批判を受けたりすることがありますか?

 私自身はそのような批判をたくさん受けています。たしかに理解はできますが、人々をアートに向き合わせには必要なことなのです。

 私がベルリンのギャラリーでファッションショーを行ったときは、おそらく何百人もの人が来ました。アートを堅持することも素晴らしいですが、人々がアートに関わることが大事なのです。

 私たちはアート界のエキスパートですから、ギャラリーに入ることが怖いなんて思ってもいない。でもその一歩がじつはとても重要なのです。そうした観点では、GINZA SIXのアートプロジェクトはとても好きですね。また私の香港の友人であるエイドリアン・チェンはK11というモールを経営していて、そこで大きな展覧会をやっていたりもします。その合体がいいのです。

ユルゲン・テラー「Heimweh」の展示風景

──『ニューヨーク・タイムズ』紙とのインタビューで、ケーニッヒさんは「私は芸術作品を選ぶのではなく、芸術家を選ぶ」とおっしゃいましたが、アーティストを具体的にどのように選ぶのですか?

 私は一度作家と仕事を始めたら、彼らのすべてを展示して彼らのプロジェクトのすべてに関わります。作品の選択に制限は設けません。作家のしたいように私も動きますので、多くの場合、その関係は長期間に渡ります。

 一番良い例はおそらくアリシア・クワドでしょう。彼女の作品を展示し始めたのは、彼女がまだ学生のときです。メトロポリタン美術館でのプロジェクトをはじめ、本当にたくさんのプロジェクトを一緒に行ってきたのです。ときには懐疑的に思うこともありますが、彼女のやりたいことに従います。つまり作品単体が重要なのではなく、作家との仕事における関係性が重要なのです。

──アート・ディーラーにとって、もっとも重要な資質はなんだと思いますか?

 すべてに対する情熱だと思います。ひとつアドバイスするならば、「作家の声を聞け」ということです。作家は、何をすべきで何を展示すべきなのか教えてくれます。彼らと話をしてその反応をよく見ることです。

 あとは「作家のようになること」ですね。私は彼らから、アーティストがもっとも勇敢な企業家であるということを学びました。彼らはアイデアのために生きています。そのアイデアは不明確だし、成功するかはわからない。そして彼らは自分自身が満足する場所までたどり着かなければならないのです。

 アーティストは、一度作品が完了したらそれが大きな一歩につながりますが、いっぽうで他者を説得しなければならないし、自分のアートが位置する文脈を見つける必要があります。それは本当に時間がかかることです。すぐに良い反応が返ってくるわけではなく、とても長い道のりなのです。だからアーティストに対しては敬意が必要なのだと思います。私にとって、アーティストを見ることはつねに感動的なことであり、つねに彼らから影響を受けています。

──いっぽうでコマーシャルな部分についてはどうですか?

 その部分はいつもあとからです。まずは作品を伝えて、人々を説得させること。そうすれば作品は自然に売れます。一度にひとつのことしかできません。

ケーニッヒ東京の展示風景