• HOME
  • MAGAZINE
  • INTERVIEW
  • 文化庁に聞く「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」の…
INTERVIEW - 2018.6.3

文化庁に聞く「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」の真意。作品売却は否定

美術界を中心に、大きな波紋を呼んだ政府案「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」構想。この真意について、文化庁の関係者に話を聞いた。

文化庁

文化庁

「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」構想が報道されたのは5月19日のこと。YOMIURI ONLINEが政府案として、国内の美術館や博物館の一部を「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」として指定し、価値付けした作品をオークションなどで売却するといった構想を掲載。6月の政府成長戦略に盛り込まれると言及した。これに対し、美術界を中心に美術館のあり方に関わる問題であるとの懸念が示されている。美術手帖では、「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」構想について、文化庁の関係者に話を聞いた。

——「リーディング・ミュージアム(先進美術館)」構想は、未来投資会議構造改革徹底推進会合において文化庁が作成した「アート市場の活性化に向けて」(4月17日付)という資料の中で明らかになったものです。しかしながら5月時点では「確定していることは何もない」という証言がありました。資料はつくったものの、検討中ということでしょうか。

 美術館の体制の充実が必要ではないかという議論は以前からありましたが、現段階においても確定しているものはありません。来年度の概算要求を提出する8月末までは、様々な検討を重ねていく段階であり、4月17日の資料はあくまで検討段階の資料の一つにすぎません。今後、様々な関係者の意見を採り入れながら検討していくものだと思っています。

——資料「アート市場の活性化に向けて」は、外部有識者の意見・チェックなどは入っていましたか?

 これまでも文化庁では様々な関係者の意見を聴いてきましたが、今回の資料については、個別に意見を聞いていたわけではありません。

——「リーディング・ミュージアム」言葉が出始めたのはいつからですか?

 近現代の美術に関し、国際的な評価を高めていくためには、美術館の機能を拡大する必要があるのではないか、という議論は以前からあり、こうした中から出てきたものだと記憶しています。これまでも、その分野で先導的な役割を担う組織を支援するというプログラムを「リーディング」と称することがあり、それをなぞらえるかたちで活字になったのが4月17日の資料です。「リーディング・ミュージアム」としてイメージしていたのは、学芸員をはじめとする組織体制を強化し、全国のミュージアム・コレクションのネットワーク化のハブとなったり、コレクションを持続的に充実させる取り組みを行うなど、機能を拡大し、国際的な存在感を増していくことを構想したものでしたが、これについては今後も様々な関係者の意見を聴きながら十分に検討していくことが必要であると考えています。

文化庁が作成した「アート市場の活性化に向けて」より抜粋

——4月17日の資料中の図には「売却」の文言があるのも事実ですが、これについてはいかがですか?

 美術館が所蔵作品を売却するということを推進する意図はありません。もちろん、限られた条件下において作品を売却するという可能性はゼロではないと思いますが、美術館が作品を売却することによって市場を活性化しようという意図はありません。海外では、作品の新規購入のために所蔵品を売却することもあると思いますが、イメージ図においては、そういったケースを引き合いに「売却」と記載していたものが計らずも注目されてしまったものと認識しています。(美術館に対して)「いま所蔵している作品を売ってください」ということは考えていませんし、「美術館で作品を価値付けして売る」ということを推進しようとしているわけでもありません。所蔵品については、相当慎重な姿勢が必要だと思っています。

——平成30年度文化庁予算で、新規事業として「アート市場活性化事業」に5000万円の予算がついています。これとの関係性は?

 この事業は、日本人作家・作品の国際的な評価を高めていくための実践的な調査研究や今後の方策検討に取り組んでいこうというもので、公募を経て国立新美術館が委託先に選ばれました。この事業は、この度議論が行われているいわゆる「リーディング・ミュージアム」とは別に行っている事業です。事業内容についてはこれから検討組織をつくり、来年3月までに具体的にどのような調査を行うのかを詰めていくことになっています。

——文化庁ではなく、国立新美術館がやることのメリットはなんですか?

 この事業は、文化庁のような行政官庁ではなく、実際に美術に関する知見を有している団体が担う方が適切であると考え、公募及び審査を行ったところ、国立新美術館が採択され、現在、事業に取り組んでいるという状況です。

——予算は単年度なので、継続性に不安があるのではないでしょうか?

 単年度予算ではありますが、この事業は5ヶ年計画で進める予定です。

——その限られた5年という期間の中で、全体としてはどのような事業が展開されていくのでしょうか?

 例えば、日本人作家のカタログの作成や国際発信等を通じて、日本人作家・作品の国際的な評価を高めていくことを目指しています。こうしたことを進めていく中で、結果としてアート市場の活性化につながっていくことを期待しています。

——とはいえ、「アート市場活性化」という名目で美術館を巻き込むのはやはり難しいのではないでしょうか?

 もとより美術館のみでアート市場を活性化させようとは考えていません。様々な主体が関係するアート市場の活性化を担うメカニズムを解明し、必要な施策を実行していくことが重要だと考えています。こうした取組と併せて美術館の体制を強化していくことが相まって、アート市場の活性化が図られることを期待しています。いずれにしても、夏の概算要求までに文化庁として整理していく必要があると考えています。

——美術館からすると「強化を謳うのであれば、より多くの予算を」というのが本音ではないでしょうか?

 文化庁としては、美術館へのより多くの予算の投入を実現していくべきだと考えていますが、国の財政状況からそう容易でないことも事実です。予算を増額していくためには、美術館が基盤的な文化施設であり、アートの本質的な価値だけでなく、社会的・経済的な価値も生んでいく、そのことで「予算をもっと投入しよう」という社会的な合意が形成されていくことが必要だと思います。もちろん、美術館の本来の原理原則を捨てるということではなく、そうしたものを守りながらより充実するための事業として進めていくことが重要です。

——先ほどから「リーディング・ミュージアム」を含む事項は検討段階であるとうかがってきましたが、いっぽう読売新聞の報道では6月の成長戦略に盛り込まれる予定とありました。これについてはいかがですか?

 成長戦略については、政府全体で検討している最中なので、現段階では申し上げられません。いずれにしても、美術館の重要性に鑑み、今後の日本の美術界の発展のために美術館がより一層の存在感を発揮できるよう、体制強化も含め努力していきたいと考えています。