2017.5.6

アートの本質と未来を考える。
5月号新着ブックリスト

『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2017年5月号では、哲学的者による芸術論や、21世紀の日本文化の動向を探る論考集など、芸術について多角的に考える4冊を取り上げた。

文=中島水緒+松﨑未來

右から『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』『芸術の言語』『崇高の修辞学』『ガラパゴス・クール 日本再発見のための11のプログラム』の表紙
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『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』

 明治初頭、刀工の名家に生まれ、道具の実用性を追究する道具鍛冶として、職人たちはもちろん、朝倉文夫をはじめとする芸術家からも絶大な支持を得ていた千代鶴是秀。彼は、名工の実直な仕事とは別に、非実用的で遊び心あふれる意匠を施した切出小刀を制作している。3代続く大工道具店の店主である著者が、是秀の謦咳に接した父より伝えられた話と資料をもとに、一群の小刀に試みられた職人の表現行為から、日本の鍛冶文化と近代の歴史をひもとく。(松﨑)

『職人の近代 道具鍛冶千代鶴是秀の変容』

土田昇=著

みすず書房|3700円

『芸術の言語』

 20世紀美学の記念碑的著作が、初版刊行から半世紀を経て邦訳された。著者のネルソン・グッドマンは、画廊経営のかたわら、ハーバード大学で博士号を取得した経歴を持つ、アメリカを代表する哲学者。本書において彼は諸芸術における記号と記号システムの研究によって、われわれの創作や観賞という行為をドライに解体していく。文中の用語の時代的な齟齬なども、丁寧な翻訳で適宜補足されており、高い現役性を保持した1冊となっている。(松﨑)

『芸術の言語』

ネルソン・グッドマン=著

慶應義塾大学出版会|4600円

『崇高の修辞学』

 「崇高」という主題を扱った世界最古の書物、ロンギノスの『崇高論』を「修辞学的崇高」なる系譜から読み解く。まずは修辞の持つ媒介作用に着目し、真理と詐術をめぐる哲学的議論を展開。さらにボワロー、バーク、カントといった近代の哲学者、ミシェル・ドゥギーら現代の思想家による崇高論を経由し、ロンギノス受容が後世でいかに継承されたのか、あるいは変貌したのかを分析する。美学、哲学、芸術論といった諸領域に思考の補助線を引く渾身作。(中島)

『崇高の修辞学』

星野太=著

月曜社|3600円

『ガラパゴス・クール 日本再発見のための11のプログラム』

 21世紀の日本文化は世界のフロンティアに成り得るのか? 芸術・文化、経済、科学、医療などに関わる識者11名が集結して研究を重ね、各分野における日本の発信力を検証する。観光先進国としての取り組みの数々、日本の現代建築のブランド力の理由、ポケモンGOやユニクロが世界的トレンドとなる背景など、昨今の世論をにぎわせたトピックが並ぶ。日本が世界に誇るアイデアやヒントを未来につなげるため、「クールジャパン」以後の動向を探る論考集。(中島)

『ガラパゴス・クール 日本再発見のための11のプログラム』

船橋洋一=編・著

東洋経済新報社|2800円

(『美術手帖』2017年5月号「BOOK」より)