豊かな自然に囲まれ、現代美術作品を多数展示したリゾートホテルが伊勢志摩にある。「タラソテラピー(海洋療法)」を体験できる施設として誕生した、タラサ志摩ホテル&リゾートだ。
タラソテラピーとは、ギリシャ語で海という意味をもつ言葉「タラサ」に由来し、海水や海洋気候により心身を癒す療法のこと。全室から海が見渡せるこのホテルはタラソテラピー以外にも、栄養管理を徹底したレストランが整い、歴史ある聖地として観光客に人気の伊勢神宮へも車で約40分の距離にある。館内に展示されている美術作品は約40点。ここでは、アートも「癒し」となる。
館内に入ると、1階のフロント付近には奈良美智、村上隆、宮島達男、ナム・ジュン・パイクといった錚々たる作家の作品が来館者を出迎える。ロビーには草間彌生、高松次郎、テラピーゾーンにはニキ・ド・サンファル、青木野枝の彫刻、エレベーター前には白髪一雄、パク・ソボ、オラファー・エリアソン、またレストランやカフェにはエリザベス・ペイトン、中西夏之、斎藤義重、吉原治良、アンディ・ウォーホル、マルク・シャガールといった名だたる作家の平面作品が展示されている。絶景の海をバックに草間彌生の《南瓜》を見ながらガーデンのオープンカフェでお茶を飲むのもよい。
美術館でのアート鑑賞と異なるのは、作品が展示された施設でのんびりと過ごすことで、何度も同じ作品に触れられることだろう。心身ともにリラックスすると、ホテルを出る頃には作品の見せる表情もより深まっているかもしれない。
タラサ志摩ホテル&リゾート運営 アールビバン株式会社 代表取締役会長兼社長 野澤克巳さんに聞く、みどころ
アートの魅力を知るには作品を自分の目で見るしかない、という側面があります。実物を確かめて、作品と同じ空間に存在することで初めて見えてくるものがある、と私は思います。当館では、ご来館のお客様がいつでも好きな時間に鑑賞できるよう、ロビーはもちろん海へと続くガーデンやタラソテラピー施設内など、いたるところに世界基準の現代美術作品を展示しています。
美術館のようにガラス越しに眺めるのではなく、作家の熱と言いますか、油絵具の隆起までも手に取るように間近で鑑賞できるのです。アート、タラソテラピー、食事療法の相乗効果が期待できるリゾート。これは、日本だけではなく海外でもほとんど例のない特別なものだと私は自負しています。(『美術手帖』2016年8月号より)