『映画と芸術と生と スクリーンのなかの画家たち』
映画史の一角を成すほど種類が豊富な芸術家の伝記映画(ビオピック)。そこで描かれる芸術家像には、美術史的考証から自由に距離を取れるがゆえの独創的な翻案が見られる。スキャンダラスな話題に事欠かないピカソ、悲劇的な行く末が取り沙汰されがちなゴッホ、ロダンとの愛人関係が作風にも大きな影響を与えたとされるカミーユ・クローデル。彼らの人生と作品はどのように演出されたのか、1冊丸ごとをビオピック分析に捧げた異色の映画論。(中島)
『映画と芸術と生と スクリーンのなかの画家たち』
岡田温司=著
筑摩書房|3400円+税
『どっちつかずのものつくり』
現代の生活者にとって器とは何か? 生活工芸の第1世代として、また岐阜県多治見の「ギャルリ百草」オーナーとして、異分野を横断しながら活動してきた著者が、半生を振り返りながら、自身の美意識を丁寧に描き出す。また後半には、古道具の第一人者・坂田和實や、陶芸コレクターでもある村上隆との対談を収録。従来軽視されてきた「折衷」を肯定的にとらえ直し、陶芸と美術、日本と西洋のあいだで「どっちつかず」な独自の道を切り開いてきた「陶作家」の思想がいま明かされる。(近藤)
『どっちつかずのものつくり』
安藤雅信=著
河出書房新社|2250円+税
建築・都市レビュー叢書05 『隈研吾という身体─自らを語る』
いま世界でもっとも注目される建築家のひとり、隈研吾。しかし、マスメディアを介して宣伝される「新国立競技場」や「負ける建築」のイメージは、ほんの一面にすぎない。構法・素材・環境などの諸要素に対して柔軟に思考し、建築を「受動的」にとらえる態度こそ、隈の本質である。数々の著作(理論)と建築物(実践)に、本人のインタビューを加えて総合的に分析した本書は、20世紀の巨大な建築や劇的な社会の在り方に疑問を呈し、建築と場所との関係を探究し続ける隈の実像に迫る。(近藤)
建築・都市レビュー叢書05
『隈研吾という身体─自らを語る』
大津若果=著
NTT 出版|2600円+税
(『美術手帖』2019年4月号「BOOK」より)