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2018.8.11

亜熱帯を描いた日本画家・田中一村を見るならいま。国内外4つの展覧会をチェック

画壇から離れ、鹿児島県・奄美大島で亜熱帯の植物や鳥などを題材とした生命力あふれる日本画を描き続けた田中一村(1908〜77)。その生誕110年にあたる今年、国内外で展覧会が開かれている。

「深みへー日本の美意識を求めてー」展の会場風景。中央は田中一村《不喰芋と蘇鐵》 © 2018 Hiroshi Niiyama
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 それまでの日本画にはなかった亜熱帯の生きものや風景を描き、独自の画境を切り拓いた田中一村(1908〜77)が、生誕110年を機にふたたび脚光を浴びている。

 栃木県に生まれ、幼少期より南画(中国の南宗画に由来する絵画)を描いていた一村は、1926年に東京美術学校に入学をするもわずか2ヶ月で退学。以降は独学で絵を描き続けた。千葉で写生に没頭し、新しい創作への道を模索するも、50歳のときに単身で鹿児島県・奄美大島に移住。69歳で亡くなるまで、生活のすべてを絵のために捧げ、亜熱帯の植物や鳥などを題材とした生命力あふれる新たな日本画の世界を切り拓いた画家だ。

 生前、作品発表の機会に恵まれなかった一村だが、没後の1980年代にテレビなどで紹介されるとその名は全国に知られるようになる。

 それから30年が経ったいま、生誕110年を機にメディアで取り上げられるなど、ふたたび注目の的となっている。そこで、本稿では開催中の一村の回顧展3つに加え、海外でも見られる一村作品を紹介。メモリアルイヤーに一村の画業を辿ってみてはいかがだろうか。

 

生誕110年 田中一村展 (佐川美術館)

田中一村 アダンの海辺 1969 個人蔵(千葉市美術館寄託)

 滋賀の佐川美術館では、個人蔵の一村作品が楽しめるのが特徴。関西では10年ぶりとなる一村の回顧展。本展では、一村の幼少期から青年期にかけての南画、南画との決別から新しい日本画への模索、そして琳派を彷彿とさせる奄美の情景を描いた作品まで、各時代の代表作を含む150点以上の作品を展覧することができる。

 千葉時代の写生で培った自然観察をもとに描かれた大作《秋晴》(1948)、奄美時代の原型とも言える《忍冬に尾長》(1956)などを展示。これに加え、一村が「閻魔大王えの土産品」と称して生涯手放さなかった作品《アダンの海辺》(1969)を期間限定で特別公開中(展示期間〜8月19日)。南国特有の植物・アダンを主題に、絹地に描いた本作は、洋画の雰囲気にも似た色使いながら、日本画独特の柔らかい風合いが見られ、一村が求めた新しい日本画の集大成と言えるだろう。

|生誕110年 田中一村展
会期:2018年7月14日~9月17日
会場:佐川美術館
住所:滋賀県守山市水保町北川2891
電話番号:077-585-7800
開館時間:9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、8月13日は開館)
入館料:一般 1000円 / 大学・専門・高校生 600円 / 中学生以下無料

 

初公開 田中一村の絵画 ―奄美を愛した孤高の画家― (岡田美術館)

 箱根の岡田美術館では、《白花と赤翡翠》(1967)、《熱帯魚三種》(1973)をはじめとする岡田美術館の収蔵作品が初公開。また、佐川美術館同様。《アダンの海辺》が期間限定で特別公開される(展示期間8月24日~9月24日)。本展は一村作品だけでなく、一村が学んだ中国画、文人画、琳派の作品や、近代の花鳥画、陶磁や漆工芸もあわせて展示されるのが特徴だ。

|特別展「初公開 田中一村の絵画 ―奄美を愛した孤高の画家―」
会期:2018年4月6日〜9月24日
会場:岡田美術館
住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
電話番号:0460-87-3931
開館時間:9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
入館料:一般・大学生 2800円 / 小中高生 1800円

 

生誕110年 奄美への路Ⅱ 田中一村展 (田中一村記念美術館)

 田中一村のコレクションを常設展示している奄美の田中一村記念美術館も忘れてはいけない。同館では所蔵品を中心とした特別企画展「奄美への路」を3期に分けて開催。一村の幼少期から奄美で没するまでの画業を、所蔵品を中心とした約110点で紹介する。一村が最後の地として選んだ奄美で、その作品と対峙する経験は特別なものとなるだろう。

|生誕110年 奄美への路Ⅱ 田中一村展
会期:2018年6月21日~9月26日
会場:田中一村記念美術館
住所:鹿児島県奄美市笠利町節田1834
電話番号:0997-55-2635
開館時間:9:00〜18:00(8月31日まで〜19:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:第1・3水曜日 
入館料:一般 510円 / 高校・大学生 360円 / 小・中学生 250円

 

深みへー日本の美意識を求めてー (ロスチャイルド館)

「深みへー日本の美意識を求めてー」展の会場風景 © 2018 Hiroshi Niiyama

 日本とフランス友好160周年を記念して、フランス・パリで開催されているジャポニスム2018。その公式企画のひとつである「深みへー日本の美意識を求めてー」展において、田中一村作品が海外で初公開されている。

 長谷川祐子のキュレーションによる同展は、19世紀に建てられたロスチャイルド館を会場に、縄文土器から現代美術まで、日本で生み出された作品の数々を紹介し、その「美意識」を提示するというもの。

 ここでは「南へ、プリミティブへ、野生の生命力へ」セクションにおいて、ポール・ゴーギャンとともに一村の作品を紹介。絹本墨画着色の《不喰芋と蘇鐵》(1973以前)をはじめとする作品群(すべて田中一村記念美術館蔵)によって、社会から逃れた「独客」が見出した生の本質を提示する。

|深みへー日本の美意識を求めてー
会期:2018年7月14日~8月21日
会場:ロスチャイルド館
住所:11, rue Berryer75008 Paris
開館時間:11:00~20:00 ※入場は19:00まで
休館日:7月23日、8月6日
料金:5ユーロ