EXHIBITIONS

本山ゆかり「この世、受け皿」

2022.03.18 - 04.16

本山ゆかり「この世、受け皿」より

 Yutaka Kikutake Galleryでは、本山ゆかりによる個展「この世、受け皿」を開催。本展では、作家の最新シリーズ「Plate」より数字をモチーフにした作品が展示されている。

 本山は1992年愛知県生まれ。2017年に京都市立芸術大学大学院油画専攻を修了し、現在は京都を拠点に活動している。

 近年、本山は透明のアクリル版に地と図を同時に描き反転させた画面を作品として提示する「画用紙」、複数の異なる色の布をつなぎ合わせて支持体とし、そこに静物をキルティングの手法を用いて刺繍した上で布のシワやヨレも含めて提示する「Ghost in the Cloth」という、2つのシリーズに集中的に取り組んできた。そこでは絵画や鑑賞行為に関わる諸要素を分解、あるいは再構築する作家の手付きを見て取ることができる。

 本展で発表される「Plate」シリーズは、木目を残した支持体に数字が彫刻された作品。数字は世界のあらゆる場所で、様々な構造を支える記号として存在しているが、本山は人間の指の数から十進法が導かれたといったように、数字における身体的な背景に関心を持ったという。

 展覧会のタイトル「この世、受け皿」は、私たちは生きている世界において、物事をそのまま直接的に感受することは極めて難しく、五感を通じた記号化を経て体験し記憶に留めているという、人間のある種の宿命から導かれている。しかしいっぽうでは、木目と数字の交錯が、記号としての数字を有機的なものとして再提示し、鑑賞者の視覚にフィジカルに訴えかけてくる「Plate」シリーズのように、本山は記号と私たちとの関わりに問いを差し挟んでいるようでもある。

 本山のこれまでの作品は、美術史、絵画の構造、日常の存在物を記号化し、再提示する試みとして認識することも可能だ。今回の「Plate」シリーズも含めて一貫しているのは、記号化の過程において、記号の主要素である均質さや流通・交換可能性をできる限り排除しながら、人の手の生々しさを伝え、不定形なものへと変換していくこと。そこからは、記号を情報として圧縮するのではなく、広がり、ほつれていくものへと変換していく手続きの所作を垣間見ることができる。

 なお「Plate」シリーズからの最新作は、本山が出展中の「VOCA展2022」(上野の森美術館、~3月30日)でも展示されている。