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河原温_死仮面画集_印刷絵画の実験

展覧会イメージ

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 スクールデレック芸術社会学研究所は、「河原温_死仮面画集_印刷絵画の実験」展を開催する。本展を通して、河原温(1933〜2014)の選んだ独自の方法論(印刷絵画)と、ヴァルター・ベンヤミン(1892〜1940)が提示した複製技術の問題を重ね合わせて、現代におけるアウラの問題を問いかける。

 河原温は、機械的複製によるコピーがアウラを凋落させ、その結果引き起こされる既成の作品概念の変化を前提にして、複製体が「いま・ここ」に結びつく「仮象」を現前化できるのか否かの実験を行った。

 デビュー当時、戦後世代を代表する新進画家として注目された河原は、少数の観客を対象とした展覧会での作品発表に限界を感じ、より広範な観客が鑑賞できる媒体として、1950年代後半から「印刷絵画」の可能性を模索するようになった。このシリーズは、新しいかたちの芸術である「印刷された絵画」のプロトタイプを提供していると見なすことができる。これは、美術館やギャラリーの制度的形態を批判し、オリジナル作品への創造的な反応を呼び起こして新たな芸術システムを構築することを示唆している。

「印刷絵画」は、作家自身が製版・印刷の工程を監理しながら制作する、オフセット印刷による絵画で、作者自身によって書かれたテクスト「印刷絵画」(『美術手帖』1959年3月号臨時増刊 特集「絵画の技法と絵画のゆくえ」)に詳細が論じられている。

 本展の出品作「死仮面」は、河原が日本において発表した最後の素描連作だ。シリーズ「日本人の肖像」の第一部にあたり、1956年5月11日から20日の、河原温「死仮面」展としてタケミヤ画廊で展示され(第二部「第三階級」は未完成のまま今日に至る)、次の言葉が残されている。「本來、この作品は、画集として最初から企画されたものであって、そのため画面を同じ大きさに限定しなければならない、という不都合が生じた。これは『印刷の絵画』とでもいうようなものの作者の最初の試みである」(タケミヤ画廊)。 

 本展は、河原の渡墨前の1955年から56年にかけて制作され、タケミヤ画廊で発表された「死仮面」シリーズ30点を収録した『死仮面画集』(1冊ごとに河原自筆の番号を表記)をベースに構成。『死仮面画集』は約40年を経て作者が意図した本来の方法で出版されたもので、作家のキャリアのなかでもとくに重要な位置付けにあり、そして本品は版画集でもなくたんなるカタログでもなく、河原が模索した「印刷絵画」の試みそのものだと言える。