EXHIBITIONS

ラッセル・モーリス「Insect Technology and Other Small Things」

2022.02.26 - 03.27

「Insect Technology and Other Small Things」メインビジュアル

ラッセル・モーリスの作品

ラッセル・モーリスの作品

 PARCELが2つ目の拠点となるスペース「parcel」を今年2月にオープン。最初の展覧会では、「Comic Abstraction」の第一人者、ラッセル・モーリスの個展「Insect Technology and Other Small Things」が開催される。

 モーリスは1975年イギリス生まれ。セントラル・セント・マーチンで修士号を取得し、現在は日本を拠点に活動。幼少期から親しんできたグラフィティ文化に影響を受け、グラフィティのレタリングやサンプリング表現を出発点とした、コミックやアニメのフィクション表現に見られる記号的な造形を解体/再構築した絵画などを制作している。これまで、ヨーロッパ各地の美術館やアートセンターなどで作品を発表し、PARCELでは第一回の展示「Comic Abstraction by Writers」に参加した。

 ヨーロッパにおけるグラフィティ文化から発祥したムーブメント「Comic Abstraction」の第一人者であるモーリスは、それらのカルチャーとファッションをつなぐ先鋭的なファッションブランド「Gasius」のディレクターとしても広く知られ、近年の「Comic Abstraction」ムーブメントにおいて重要な触媒となる作家のひとりだ。

 本展でモーリスは、昆虫のかたちを抽象化し、シンメトリー、黄金比、チューリングパターン、フラクタルなどの造形パターンをサンプリング/リミックスした、幾何学的な大型絵画とコラージュのシリーズを発表。新作では様々な種類の幾何学模様、断片的なイメージが絵画上につなぎ合わせられていくことで、顕微鏡で小さな生態系を覗き見たような世界観が表現されている。

 一見グラフィカルかつポップな印象の作品群だが、生物や自然物が持つ造形の特性を熟知した上で展開されるモーリスのその表現は、アニメやアニメーション同様、ストリートカルチャーの表現が自然界に存在する有機的で抽象的な形状に基づいていることを感じさせるとともに、ストリートアートがサイケデリックアートや神秘主義と結びついていることを示唆する。

 モーリスはグラフィティ、音楽やファッションだけでなく、SFやアニメーションにも造詣が深く、自然科学やコンピュータサイエンスにもその興味の幅を広げている。モーリスの表現が持つ重要な観点は、様々なサンプリングを行い、芸術におけるジャンルの枠組みで分断されている知性や文脈に接続していくことにある。

 グラフィティを軸に様々な専門分野の知性の破片をコラージュし、新たな視覚的体験を開拓するモーリスの2年ぶりとなる個展に注目してほしい。

 PARCELでは今後、2つのスペースを通して、時代に対し多角的なメッセージを発信しながら、コマーシャルギャラリーとプロジェクトスペースの特性を併せ持った存在とプログラム構成を目指す。