EXHIBITIONS

野又穫「月下 - Gekka」

2022.01.21 - 02.19

野又穫 Gekka-2(Work in progress) ©︎ Nomata Works & Studio

 TARO NASUでは、野又穫の個展「月下 – Gekka」を開催する。会期は1月21日~2月19日。

 野又は1955年生まれ。79年に東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業し、現在は東京を拠点に活動。個展・グループ展多数、主な受賞歴に、1995年芸術選奨文部大臣新人賞、2006年度タカシマヤ美術賞。主著に『Elements – あちら、こちら、かけら』(青幻舎、2012)、『Alternative Sights -もうひとつの場所』(青幻舎、2010)、『Points of View – 視線の変遷』(東京書籍、2004)などがある。

 作家にとって日本での約4年ぶりの個展となる本展では、新作6点を中心に展示する。

 野又は絵画、立体、版画、ドローイングなど多様な手法を用いながら、想像上の建築物をモチーフとした作品を制作。日常で気にかかる事象を空想建築で表現することから、しばしば「予兆の画家」として形容され、近未来的であり回顧的でもある作品は、現代の都市だけでなく地球の未来を考える契機を鑑賞者に提案する。

「空想建築」をひとつの言語としてとらえる野又の出発点は、幼少期を過ごした町にある。町工場と住宅が隣接する商工業地域だったその場所で、染物屋を営む父母のもと伝統的デザインにふれるいっぽうで、煙突や鉄塔の構造的部分に関心を持つようになった。とくに1960年代半ばの東京ではオリンピックを前に都市開発が盛んに行われ、建設中の東京タワーに新たな都市への期待が寄せられるなか、野又もまた未来への高揚を感じていたと言う。

 東京藝術大学デザイン科に入学し、精密主義の代表作家チャールズ・シーラーの作品や、メディアアートのトーマス・バイルレによる「都市」シリーズなどに出会い、野又自身の思考を体現するモチーフとして建築を描き始めた。また、SF作家のフィリップ・K・ディック、音楽家のブライアン・イーノやエリック・サティの作品群も、野又の作品世界に多大な影響を与えた。

 写実的な建築描写と神秘的な風景は、時空を超越した世界へと鑑賞者を誘う。既視感がありながらも実在しない建物、人気のない土地や広大な空、漂う静寂。画面を構成する様々な要素に、野又は現代都市に対する自身の思いを描出していると言う。しかし作品理解に「正解」をつくることは決して望んでおらず、作家より与えられた鑑賞の自由は、解釈の幅を広げ、各々の背景と融合しながら新たな作品世界の構築を実現させる。