EXHIBITIONS

トミノ見えざる手

2021.11.06 - 11.27

同人誌『トミノ見えざる手』表紙 2021

古屋郁 愛の戦士と乙女のポリシー 2021

吉田山 ダイニングメッセージ『撹拌する台所では富の再分配に関するダイイングメッセージが書かれていた』 (参考画像) 2021

吉田有紀 弐百式(部分) 2021

五島一浩 私/私達は見ていた(部分) 2021

  eitoeikoは、グループ展「トミノ見えざる手」を開催。五島一浩、古屋郁、吉田山、吉田有紀のアーティスト4名が参加する。

 本展は、日本のアニメーションに多大な影響を与えた富野由悠季の作品と、18世紀イギリスの経済学者アダム・スミスの思想を通じて、1970年代後半〜21世紀のマスメディアを考察するもの。展覧会タイトル「トミノ見えざる手」は、スミスの「神の見えざる手」のもじりで、「個々の利益の追求が、意図せずして公共の富をもたらす」という発想を、「個々の表現の追求が、意図せずして富野の影響下にある」状態を示し、本展でそれを様々な角度から検証する。

 富野は『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』『戦闘メカ ザブングル』、『聖戦士ダンバイン』『Gのレコンギスタ』などに代表される数多くのロボットアニメを監督したテレビアニメーション番組の名監督。児童向け商業アニメーションの分野における富野の発意と工夫が数多くの後続を生み、国内のみならず世界中に多大な影響を与えてきた。その制作手法はアニメーションを動く紙「芝居」ととらえた画期的なものだった。

 いっぽうスミスの『国富論』(正式には『国の富に関する性質と要因の研究 An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』)のキータームは、富野アニメに見られる登場人物たちの「社会分業」に描かれ、あるいは架空の政府に見られる「国防」「司法行政」「公共設備」などの問題点は、『機動戦士ガンダム』の宇宙世紀などで描かれる世界の構造に当てはまる。

 富野はまた、16世紀英国の劇作家シェイクスピアから物語の構図を引用しており、人間の幸福の探求というテーマには相通じるものがある。スミスもまた同じく啓蒙の世紀の哲学者だった。これらのことを踏まえて本展では、五島一浩、古屋郁、吉田山、吉田有紀の4名の作品を展示するとともに、本展に寄稿した村雨ケンジ、美術ライターの茂田有徳、評論家のgnck、表紙・本文カットにマリモスを迎え、同人誌『トミノ見えざる手』を発行する。11月21日には村雨ケンジと茂田有徳による特別対談も開催される。

 本展は、幼少期に期せずして富野監督に導かれたことによって、振り返ってスミスの見えざる手までを感じ取る、視覚体験を通じて感得する展覧会になると言う。