EXHIBITIONS

Identity XVII - 拡張家族 - curated by Eriko Kimura

2021.07.02 - 08.07

レーヌカ・ラジーヴ I know the pilot © Renuka Ravij Courtesy of nca | nichido contemporary

関健作 OF HOPE AND FEAR #7 © Kensaku Seki Courtesy of nca | nichido contemporary

本間メイ 見過ごされた痛みにある体|Bodies in Overlooked Pain © Mei Homma Courtesy of nca | nichido contemporary

 nca | nichido contemporary artが毎年ゲストキュレーターを迎え、様々な視点から「Identity」というテーマを考察する展覧会シリーズ。今回は木村絵理子(横浜美術館主任学芸員)の企画展を開催する。

 本展のキーワードは「拡張家族|Beyond Family and Species」。アジアの様々な土地に根差しつつ、社会のなかで見えにくくなっていた事柄に目を向けて、既成の定義を超えた人間同士、あるいは人とそれ以外の存在との関係性に言及しようとする4名のアーティスト、本間メイ、影山萌子、レーヌカ・ラジーヴ、関健作を紹介する。

 インドネシアと日本で妊娠と出産についてのリサーチを重ねる本間メイ。ブータンに暮らす若者たちのコミュニティを取材する関健作。インドにおいてジェンダーやセクシュアリティの観点から多様な人間の生活に目を向けるレーヌカ・ラジーヴ。そして東京の都心部で人間や動植物といった種の概念を超える存在を描き出そうとする影山萌子。4名の作品からは、既成の定義を解体した後に、新たな境界線を引き直すのではなく、概念を拡張し、超えていこうとする態度が表れている。

 本展では、本間メイは、妊娠と出産という人間にとってもっとも根源的な活動でありながら、女性の身体に生じている現象が社会的にあまり共有されていない状況に目を向け、写真作品として提示。インドネシアの伝統を引き継ぐ産婆でもあるドゥクン・バイへの映像作品では、インタビューを起点に、近代医療の影で見過ごされてきた女性のメンタルや身体的負荷をクローズアップすることで、物理的事象と精神的な動きとが対照的に示され、神話的・抽象的語りとは異なる次元での、実体のある妊娠・出産の現実が語られる。

 関健作は、伝統的価値観の枠組みからこぼれ落ちた若者たちに寄り添い、それぞれがストリートのカルチャーを拠り所に、独自のコミュニティを築いて希望を見出していこうとする姿を収めた写真を展示。レーヌカ・ラジーヴは、インドのバンガロールを拠点に、自身を取り巻く様々な人々の生活と、多様性のなかから導き出された幻想的・象徴的イメージとを、ドローイングや布を使って表現する。

 そして影山萌子は、自然と人工物とが入り混じった世界に、時に二枚貝などの水棲生物が登場する不条理とも呼ぶべき風景画を制作。その作品には、もはや人間と水棲生物といった種の区別のみならず、有機物と無機物の違いさえも超えた生態系が存在している。

 本展キュレーターの木村絵理子は現在、横浜美術館主任学芸員。2005年から横浜トリエンナーレに携わり、20年は企画統括を務める。近年の主な展覧会企画に、「HANRAN: 20th-Century Japanese Photography」(National Gallery of Canada、2019)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009〜10)などがある。