EXHIBITIONS
中村一美
中村一美の個展がBLUM & POE 東京で開催。本展では、これまでほぼ未公開であった紙を支持体とする「絵画作品」と、1980年以降継続して取り組んできたキャンバス作品のシリーズ群を同時に発表する。
中村は1956年千葉県生まれ。現在、埼玉県日高市を拠点に活動。当初は東京藝術大学で美術理論を専攻するが、「もの派」を代表する美術作家のひとりである榎倉康二のもとで美術制作を学んだ。その後、師と仰ぐ榎倉の強い後押しで次第に作品制作に専念。40年を超えるキャリアのなかで、これまでヨーロッパ、中東、東アジア各地で展覧会を開催している。
シリーズといった複数の作品のあいだに生じるバリエーションや差異を「示差的イメージ」と提唱する中村。決まったモチーフに繰り返し描くその手法は、アメリカやヨーロッパで新表現主義が花開き、日本ではニュー・ペインティングが台頭するなかで生まれた。アメリカのモダニズム的視覚言語によって、東アジア的なモチーフやその絵画の空間表現を再解釈しようとする試みは、独自性を有しながらも美術史との相関性を持った作品として成立していると同時に、中村は、日本の土着性のなかで地域的独自性を持った要素を用いて西洋絵画を発展させていくことで、西欧中心的な言説に立ち向かい続けてきた。
本展では、とくに1980年代より取り組んできた初期の作家の実践を示す「Y型」や「斜行グリッド」を用いた、シリーズのなかでも希少な作品群が展示される。
出品作に度々登場する「Y字」の記号は、地図記号で「桑畑」を意味し、地形学についての作家のフォーマリスティックな参照を表したもの。中村にとって「Y型」は、母方の生家にあった桑の木々と結びついた非常に個人的なモチーフでもあり、さらには1960年代以前の母方の家業であった養蚕業の衰退の歴史を想起させる社会政治的な意味性を持つという。
いっぽう幾何学的抽象を描いた「斜行グリッド」の絵画作品は、日本の絵巻の特徴的な、平行的な視線の動きについての再解釈から制作された。中村の造語をタイトルとした「織桑鳥」は、死後の再生を表す「不死鳥」と、「織物業」「桑」「鳥」の日本的な特性を結びつけた作品。不死鳥は中村にとって個人史と強く共鳴する心理的なモチーフであり、近代で廃れてしまった養蚕業の再生、ひいてはすべての衰亡したものへの再生の願いとして描かれている。
もうひとつの「存在の鳥」は、中村が登山の際に遭遇した山頂から下方へと飛んでいく鳥の様子から着想を得たシリーズ。中村は、「飛翔」とは、人類すべてにとっての悪災や悲劇に打ち勝つための手段を象徴する概念であると考えてきた。同名シリーズは、初期作品からの引用となる「Y型」の繰り返されるモチーフによるコンポジションが、空想上の鳥の図像の5種類ほどのマトリクス(母型)を基本形として描かれている。韓国の民画や始祖鳥の化石、あるいは鳥という象形文字に見られる鳥の原型を取り入れたこれらのイメージ群は、中村が述べる「究極的な示差性を持つ絵画を描く」ことを可能にしている。
本展では、並列的な展示構成によって作品のなかに新たな対話を生み出し、中村がそれぞれの作品のコンポジションを構築するうえで、いかに連続的で反復的な方法論を用いていたのかを明らかにする。また、制作日が記された紙作品の多くからは、作家の日々の制作における心理を反映した、記録的な側面をうかがい知ることもできるだろう。
中村は1956年千葉県生まれ。現在、埼玉県日高市を拠点に活動。当初は東京藝術大学で美術理論を専攻するが、「もの派」を代表する美術作家のひとりである榎倉康二のもとで美術制作を学んだ。その後、師と仰ぐ榎倉の強い後押しで次第に作品制作に専念。40年を超えるキャリアのなかで、これまでヨーロッパ、中東、東アジア各地で展覧会を開催している。
シリーズといった複数の作品のあいだに生じるバリエーションや差異を「示差的イメージ」と提唱する中村。決まったモチーフに繰り返し描くその手法は、アメリカやヨーロッパで新表現主義が花開き、日本ではニュー・ペインティングが台頭するなかで生まれた。アメリカのモダニズム的視覚言語によって、東アジア的なモチーフやその絵画の空間表現を再解釈しようとする試みは、独自性を有しながらも美術史との相関性を持った作品として成立していると同時に、中村は、日本の土着性のなかで地域的独自性を持った要素を用いて西洋絵画を発展させていくことで、西欧中心的な言説に立ち向かい続けてきた。
本展では、とくに1980年代より取り組んできた初期の作家の実践を示す「Y型」や「斜行グリッド」を用いた、シリーズのなかでも希少な作品群が展示される。
出品作に度々登場する「Y字」の記号は、地図記号で「桑畑」を意味し、地形学についての作家のフォーマリスティックな参照を表したもの。中村にとって「Y型」は、母方の生家にあった桑の木々と結びついた非常に個人的なモチーフでもあり、さらには1960年代以前の母方の家業であった養蚕業の衰退の歴史を想起させる社会政治的な意味性を持つという。
いっぽう幾何学的抽象を描いた「斜行グリッド」の絵画作品は、日本の絵巻の特徴的な、平行的な視線の動きについての再解釈から制作された。中村の造語をタイトルとした「織桑鳥」は、死後の再生を表す「不死鳥」と、「織物業」「桑」「鳥」の日本的な特性を結びつけた作品。不死鳥は中村にとって個人史と強く共鳴する心理的なモチーフであり、近代で廃れてしまった養蚕業の再生、ひいてはすべての衰亡したものへの再生の願いとして描かれている。
もうひとつの「存在の鳥」は、中村が登山の際に遭遇した山頂から下方へと飛んでいく鳥の様子から着想を得たシリーズ。中村は、「飛翔」とは、人類すべてにとっての悪災や悲劇に打ち勝つための手段を象徴する概念であると考えてきた。同名シリーズは、初期作品からの引用となる「Y型」の繰り返されるモチーフによるコンポジションが、空想上の鳥の図像の5種類ほどのマトリクス(母型)を基本形として描かれている。韓国の民画や始祖鳥の化石、あるいは鳥という象形文字に見られる鳥の原型を取り入れたこれらのイメージ群は、中村が述べる「究極的な示差性を持つ絵画を描く」ことを可能にしている。
本展では、並列的な展示構成によって作品のなかに新たな対話を生み出し、中村がそれぞれの作品のコンポジションを構築するうえで、いかに連続的で反復的な方法論を用いていたのかを明らかにする。また、制作日が記された紙作品の多くからは、作家の日々の制作における心理を反映した、記録的な側面をうかがい知ることもできるだろう。