EXHIBITIONS

笹井青依「上へむかって流れる水」

2021.03.02 - 04.24

笹井青依 上へむかって流れる水 2021

笹井青依 上へむかって流れる水 2 2021

 笹井青依は1986年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コースを修了。ニュートラルなグレーの空間を背景に、デフォルメされた木々を描き、その独自の世界観が高く評価されている。

 笹井がこれまで一貫してモチーフとしてきたのは、山や森に茂る野生の樹木ではなく、人が何かの目的のために植えた、日常のなかにあるごく身近な木だ。

 2019年10月、巨大な台風19号が日本列島を直撃し、各地に甚大な被害をもたらした。その直後の10月14日、笹井は青森県下北半島・恐山を訪れ、秋詣りで行われるイタコの口寄せで降りてきた父方の曽祖父と対話。曽祖父とのやりとりの後、イタコから父方の曽祖母の墓参りをするよう助言を受けた。

 2週間後、笹井は曽祖母の墓参りをするため長野県上田市へ旅に出た。しかし、台風の影響でしなの鉄道の運行が休止。山の奥にある墓に行くことは叶わず、周辺の地図を調べて見つけた鳥羽山洞窟に向かった。この遺跡は古墳時代に亡くなった人を葬るための場所だったとされており、続いて岩谷堂洞窟にも足を運んだ。笹井はそこで太古の人々の亡骸を想像しながら、真っ暗な洞窟のなかでひとり留まった。

 本展では、笹井が青森と長野の旅のなかで出会った光景や木々をモチーフに描いた「上へむかって流れる水」など、新作絵画8点と水彩ドローイング2点を展示。本展について作家は、「絵を描くことは、ある人には意味があり、ある人には無意味だ。完全な薬ではなくある種の毒も含まれるのだと、霊場の地面を思い出しながら描いた」と言葉を寄せている。