EXHIBITIONS

OBJECTS IN MIRROR ARE CLOSER THAN THEY APPEAR

松川朋奈 新しい100年 2020

山谷佑介 2019年2月26日 東京都杉並区 2020

 松川朋奈と山谷佑介の2人展がユカ・ツルノ・ギャラリーで開催。2016年の「at home」以来の2人展となる本展では、自身の表現に対する変化や社会が持つ不確かな眼差しを照射するような新シリーズを発表する。

 松川は1987年愛知県生まれ。2011年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。同世代の女性とのインタビュー重ねることで絵画の主題やモチーフを選んできた松川は、自身が年齢を重ねるにつれて同世代の「若い女性」であった女性らが、「妻」や「母親」といったいままでとは異なる立場や社会的責任を持ち始めたことに気づく。

 そこで近年はとくに、親という重圧や社会的な偏見に押し潰されずに自身を愛する営みを思索し、母親と子供の主題を多く描いた「Love Yourself」シリーズを制作。同シリーズをきっかけに、ハイヒールによる靴擦れや化粧によって残された人間の内面や生活の痕跡のほかに、緩む肌や目尻の皺など年齢によって時間の痕跡が身体に刻まれ始めたことに直面するようになった。

 山谷は1985年新潟県生まれ、立正大学文学部哲学科卒業。文芸誌『新潮』にて、2019年10月号より連載されている磯部涼の「令和元年のテロリズム」の写真を担当。川崎市登戸通り魔事件、元農水事務次官事件、京都アニメーション放火事件など、令和に起きた事件の現場や加害者の育った街を作家とともに取材している。

 その傍らで、家族を持つ個人として身の回りの生活の撮影も継続してきた山谷は、加害者が見ていた風景と自身が日常的に見る風景の違いについて考えるようになった。また、カメラを接続したドラムセットで演奏しながら自身も被写体となるパフォーマンス「Doors」にも取り組んでおり、ヨーロッパツアーを終えてみて、それ以前に制作したコントラストの強い作品が持つ演出されたようなイメージへの違和感を持ち始めたと言う。

 いまから4年前の「at home」展では、「家」に象徴される私的空間や日常生活に残された痕跡、人間の営みの不可視な側面に焦点を当てた松川と山谷。ふたりは、ここ数年をかけて私生活や作品制作における変化と新たな気づきを受け入れながら制作活動を続けてきた。

 本展のタイトル「OBJECTS IN MIRROR ARE CLOSER THAN THEY APPEAR」 は、アメリカやカナダなどの国において車のサイドミラーに貼られた安全警告文から取り、鏡にはまだ遠くに映って見えるものが実際には近くにあることの注意を促すもの。本展では、遠くに感じているものがいかに自分たちの身近にあったのかという距離感や、社会や個人の視線を反射する日常を構成する風景など、ふたりの経験から導き出された新作が展示される。