EXHIBITIONS

来田広大「Narrative Landscape」

2024.02.09 - 03.16

来田広大 Narrative Landscape Drawing #1 2024

 CLEAR GALLERY TOKYOで、来田広大の個展「Narrative Landscape」が開催されている。

 来田は1985年兵庫県生まれ(京都市在住)。2010年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画技法材料を修了し、16年〜17年にはポーラ美術振興財団在外研修員としてメキシコシティ滞在した。

 同廊で3年ぶりの個展となる本展では、来田が旅先で購入した古本に引かれていた線を起点に、新たに紡がれる物語とその風景を描いた新作の絵画を発表。来田は国内外各地でのフィールドワークをもとに、絵画やインスタレーション、野外ドローイング、映像などの媒体で、身体的経験を通じた作品を制作している。幼少より登山に親しんできた来田は山をフィールドワークの対象にすることも多く、肉体的精神的にも過酷な状況下で見た風景と、その風景に内包される人間の営みや流れ行く時間を、作品を通して表現してきた。

 見えない風景への探求は、その場所で生活する人々や文化と自分との関わりを考察することでもあり、その普遍的な問題意識とともにフィールドワークをもとにした来田の実践は、人類学的思考とも交差していく。22年に来田がキュレーションをした、ラテンアメリカの先住民コミュニティを研究する研究者と現代アーティストによる展覧会では、メキシコの村で現在も続いている慣習に自身の体験を重ねた作品を制作。それは制作を通して、異文化に触れ交流しようとする来田の試みでもあった。
 
 本展の作品群も、言葉も文化も違う見ず知らずの誰かによって引かれた線をたどり、その風景を想像し描くことで、分からないことに対しての関心と共有、来田の言葉でいう「風景に触れる」という意識の顕れと言える。一歩一歩、点と点を結ぶように引かれた線は、多くの事柄を差別化し分断してきた。しかしその境界線は何かを隔てるだけではなく、その先には続く世界があることを想起させ、そこに生きる他者の存在が、自己と社会ともつながっているということを来田の作品は示唆している。