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アンフォルメル

Art informel

 第二次世界大戦後、フランスを中心に興隆した美術運動。運動の推進者・提唱者となったのは批評家のミシェル・タピエである。タピエは戦時下の不安な人間存在を表現したフォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスらの作品に触発され、1951年、ギャラリー・ニナ・ドーセで「激情の対決―非具象絵画の最先端」展を組織する。その後、2度に渡る展覧会「アンフォルメルの意味するもの」の企画や画集兼著書の『別の芸術』の刊行を通じ、未分化な形象を前面に打ち出した一連の抒情的抽象を「アール・アンフォルメル(不定形の芸術)」として括った。構成主義をはじめとする幾何学抽象が「冷たい抽象」と呼ばれるのに対し、アンフォルメルはその激しい感情表現から「熱い抽象」と定義されることがある。

 また、当時のフランスで流行していた実存主義とも精神的風土を共有する運動である。そのほかの主要作家はアンリ・ミショー、ジョルジョ・マチウ、ピエール・スーラ―ジュ、ハンス・アルトゥング、パリ在住の堂本尚郎、今井俊満など。日本においては56年の「世界・今日の美術展」(日本橋高島屋)での紹介、翌年のタピエとマチウの来日を機に本格的な受容が始まった。タピエは新聞・雑誌上でアンフォルメルの言説を積極的に発信し、他方のマチウは人目を引く浴衣姿で公開制作を行った。こうしたプロモーション活動は着実に反響を呼び、日本の美術界全体に「アンフォルメル旋風」と呼ばれる一大ブームを巻き起こした。とりわけ具体美術協会の美術家たちを一挙に絵画制作に向かわせた影響力は、その成否も含めて特筆すべきものがある。

文=中島水緒

参考文献
『アンフォルメルとは何か? 20世紀フランス絵画の挑戦』(ブリヂストン美術館編、ブリヂストン美術館、2011)