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パブリック・アート

Public Art

 美術館やギャラリーではなく公共空間に設置された芸術作品のこと。国家主導の文化政策としては、1960年代のアメリカにおいてパブリック・アート設置の事業が本格的に開始された。なかでも知られているのが、連邦政府内に創設されたNEA(全米芸術基金)による公共空間アート・プログラムである。このプログラムは、アーティストの選考やプロポーザル案に市民の意見を反映させるなど、制作過程にも住民参加を促すシステムで、国民すべてが平等に芸術作品に接する機会を提供するものであった。

 またパブリック・アートは、アース・ワークやサイト・スペシフィック・アートなど、設置される場所の結びつきを強く意識した作品とも関わりを持つ。たとえば81年にニューヨーク連邦ビル前の広場に設置されたリチャード・セラの《傾いた弧》は、市民からの安全性や都市景観を損なうといった批判を受けて89年に撤去され、市民社会の視点からパブリック・アートの存在意義を問う議論へと発展するきっかけとなった。対して日本では、パブリック・アートの概念が輸入され公共事業として着手されるようになったのは1980年代のことである。

 芸術支援の観点から実施されているというよりは「彫刻のあるまちづくり」といった都市整備事業としての側面が強く、公共空間における作品設置の意味も深く問われないケースがまだまだ多い。公共性の概念との関わりからパブリック・アートの存在意義を検証するようなさらなる議論が今後期待される。

文=中島水緒

参考文献
松尾豊『パブリックアートの展開と到達点 アートの公共性・地域文化の再生・芸術文化の未来』(水曜社、2015)
工藤安代『パブリックアート政策 芸術の公共性とアメリカ文化政策の変遷』(勁草書房、2008)