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セカイ系

world-type

 1990年代後半から2000年代に日本で制作・発表された作品の一群を、包括的に形容する概念。用語としては2000年代前半にネット上で登場、流行した。主人公の少年と恋愛相手の小さく日常的な二者関係(「ぼく」と「きみ」)が、社会関係や国家関係のような中間領域を媒介することなく、「世界の危機」「世界の破滅」といった存在論的な大問題と直結するような物語構造を持つ。高橋しんのマンガ『最終兵器彼女』(2000-01)、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』(2001-03)、新海誠のアニメ『ほしのこえ』(2002)の3作が、代表的な作品として広く知られる。

 評論家の前島賢は、セカイ系の作品群の出自を、オタク文化における作品受容態度に大きな転換をもたらしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(庵野秀明監督、1995-96)を境として後続する文脈(「ポスト・エヴァのオタク史」)に求めている。同作の主人公、碇シンジがその典型として体現するような、一人語りの激しい、内省的な自意識の描写が、当初の「セカイ系」定義に含まれた特徴であった。

 さらに前島は、セカイ系の諸作品が実際に排除しているのは、社会や中間領域というよりもむしろ、「世界設定」であると指摘する。たとえば、『エヴァ』における「使徒」がそうであるように、世界に危機をもたらす「敵」は正体不明で謎めいた抽象的存在として描かれる傾向にあり、主人公やヒロインは「何と戦っているのか」(=世界設定)が説明されない。また、同作がもたらした新たな作品受容態度への転換を示す2つの指標、「セカイ系」と「萌え」の要素を統合的に含有する、谷川流の小説『涼宮ハルヒの憂鬱』(2003年刊行/2006年アニメ化)は、ポスト・エヴァの時代を象徴する作品と位置づけられている。

 セカイ系の概念が物語構造による定義に取って代わられるにつれ、「エヴァっぽい」という当初の歴史的背景は希薄化していくが、こうした変遷のなかで、社会批評などを含むより広範な領域にまたがる分析装置、キーワードとして注目されていくこととなった。

文=勝俣涼

参考文献
『セカイ系とは何か』(前島賢著、星海社、2014)
『社会は存在しない セカイ系文化論』(限界小説研究会編、南雲堂、2009)
『ゼロ年代の想像力』(宇野常寛著、早川書房、2008)
『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』(東浩紀著、講談社、2007)