ヴィルヘルム・リヒャルト・ワーグナー(1813〜83)による『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、実在の町を舞台に職人や町人が行なう「歌合戦」を題材とするオペラ。民衆による新たな芸術が生まれる過程が描かれた本作は、ストリートを舞台にした「革命劇」でもある。
『ワーグナー・プロジェクト』では、この「歌合戦」を、「ストリートオペラ」とたとえられることもある「ヒップホップ」に接続。6時間×9日間の合計54時間に及ぶ「上演」を行なう。世界各地で活動を広げる演出家・高山明を中心に、音楽監督を荏開津広(えがいつ・ひろし)、空間構成を小林恵吾、グラフィティをsnipe1がつとめる。
出演するワーグナー・クルーは、現在選抜オーディションへのエントリーを受付中。講師には、GOMESS、斉藤斎藤、管啓次郎、瀬尾夏美、ダースレイダー、ベーソンズ、山田亮太など、第一線で活躍するラッパー、DJ、詩人、アーティストらが名を連ねる。
この「上演」では、神奈川芸術劇場(KAAT)大スタジオを舞台に、ライブやグラフィティ、ファッションショーといったあらゆるストリートカルチャーを同時多発的に展開。今、改めて「詩、芸術、祝祭」を問う、かつてないワーグナーの「上演」だ。
近代的な演劇の手法を確立したワーグナーを「ヒップホップ」に結びつけた、演劇の既存の概念を揺るがす挑戦的なプロジェクトに注目したい。