有識者が選ぶ2023年の展覧会ベスト3:菅原伸也(美術批評家)

数多く開催された2023年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は美術批評家・菅原伸也のテキストをお届けする。

文=菅原伸也(美術批評家)

「甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性」(京都国立近代美術館)展示風景より、《虹のかけ橋(七妍)》(1915〜76)
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「甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性」(京都国立近代美術館/2月11日〜4月9日)

展示風景より、中央パネルの左側が太夫に扮する甲斐荘楠音、右が椿を持つ楠音

 甲斐荘楠音といえば、独特の作風を持つ日本画家として主に知られているであろうが、本展でその画業は最初の章でコンパクトに扱われるのみであり、画家以外の側面、すなわち溝口健二や伊藤大輔の映画における風俗考証の仕事やトランスジェンダーとしての側面に主眼が置かれている。それらはいまだ、美術の外部にあって無関係なものと通常考えられているかもしれない。しかし、現代の美術界では「内部」と「外部」を安易に分けることはできず、「外部」が「内部」に入り込むようになっている。そういった意味で本展は現代行われてしかるべき「真っ当」な展覧会だと評価すべきだろう。

「ねこのほそ道」(豊田市美術館/2月25日〜5月21日)