そこは、まるで「芸術ワンダーランド」。日藝の図書館から届いたブックリスト

全国の美大図書館から届いた選書で構成される「美大図書館の書架をのぞく」シリーズ。アートをもっと知りたい、アートも本も好きな読者に向けた新連載の第5回目は、東京・練馬区にある日本大学芸術学部にフォーカスする。

日本大学芸術学部外観 撮影=八木元春(日本大学芸術学部写真学科教員)
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 全国の美大図書館の司書から届いた選書で構成される「美大図書館の書架をのぞく」シリーズ。アートをもっと知りたい、アートも本も好きな読者に向けた本連載の第5回目は、東京都・練馬区の江古田に位置する日本大学芸術学部にフォーカスする。

 日本大学芸術学部。通称「日藝(ニチゲイ)」は、写真、映画、美術、音楽、文芸、演劇、放送、デザインの8学科を有する国内初の芸術総合学部だ。学部創設102年の伝統を築き、日本のアートやエンタテイメント界に多彩な人材を輩出し続けている。

 最寄りである西武池袋線の江古田駅を降りると、徒歩1分ほどで全面ガラスで覆われた日藝キャンパスのギャラリー棟が目に飛び込んでくる。図書館はギャラリー棟の奥に位置する建物内にあり、芸術関連資料を中心に約49万冊の書籍および7900点の映像作品を所蔵。8学科を有する日藝の多様さ、関心分野の広さが反映された図書館となっている。

日本大学芸術学部外観 撮影=八木元春(日本大学芸術学部写真学科教員)
日本大学芸術学部図書館内観 撮影=八木元春(日本大学芸術学部写真学科教員)

 そんな日藝の図書館にはどのような本があるのか、日藝の学生はどんな本を読んでいるのか。同学図書館の選書を、写真学科教員・八木元春の撮影による「本のポートレート」とともに紹介する。

年間でもっとも借りられている本

ロラン・バルト、訳:花輪光『明るい部屋 写真についての覚書』

ロラン・バルト『明るい部屋 写真についての覚書』(みすず書房、1997年)

 写真があふれる現代。普段写真を意識することは殆どないかもしれません。我々の生活に密着した「写真」とはどんなものなのでしょうか?

 フランスの哲学者ロラン・バルトは比較的平易な言葉で様々な写真を検討し、写真が我々の心をとらえる理由、写真の本質を探究します。そして、ついに亡き母の幼時を写した1枚の写真からその本質を見出します。本書はまた、バルトの最愛の母の記憶に捧げられたものでもあるのです。その探求は僅かなきっかけから「時」を見出したプルーストを思わせ、写真に関心を持つ人の必読書のひとつと言えるでしょう。

禁帯出の本から、とっておきの本

『VERVE(ヴェルヴ)』

『Verve : artistic and literary quarterly』(1937〜1960年)

 批評家であり美術編集者のテリアードが発起人となって出版された美術文芸雑誌『VERVE(ヴェルヴ)』は、1937年から1960年の間に第38号まで出版されました。毎号表紙のデザインには当時新進気鋭の画家たちが抜擢され、創刊号を飾ったのは、かのアンリ・マティス。どの号も美しい表紙に目を奪われます。

 日藝図書館には、この『VERVE』が1号から38号まですべて揃っています。雑誌のタイトルは「勢い」「活気」「熱情」などを意味しますが、それはまさに産業革命後の時代の潮流と合致していたように思います。当時の文運隆盛に思いを馳せながら、世界でもっとも美しい美術雑誌を堪能ください。

「いま、読んでほしい」本

久保(川合)南海子 『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』

久保(川合)南海子 『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』(集英社、2022年)

 推しの誕生日にアクスタ(=アクリル・スタンド)で祭壇をつくる。推しのぬい(=ぬいぐるみ)と旅に出て、聖地でインスタにあげる。そんな推し活するオタクの気持ちを、心と身体と世界の関係を考える認知科学の最新の領域である「プロジェクション・サイエンス」で考えてみたのがこの本です。

 私たちは目の前にある「対象」に意味を与え、世界に「投射」する。その心のはたらきがあるから「推し」に救われたりもする。昨今話題の「推し」現象を見事に科学で解明しつつ、最新の認知科学の入門書にもなっています。科学者コミュニティと腐女子の二次創作は同じ心の働きなのだとか。驚きです!