天才たちの創造力を支えてきた貴重本が勢揃い。藝大の図書館から届いたブックリスト

全国の美大図書館司書による選書を紹介する「美大図書館の書架をのぞく」シリーズは、アートをもっと知りたい、アートも本も大好きという読者に向けた連載企画。第3回目の今回は、日本で唯一の国立総合芸術大学である東京藝術大学の図書館からおすすめの本が届いた。

東京藝術大学附属図書館(上野本館)内観
撮影=望月花妃
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 東京藝術大学は、美術学部、音楽学部の2学部、大学院の4研究科を擁する日本で唯一の国立総合芸術大学。キャンパスは、東京都台東区上野公園内、茨城県取手市、神奈川県横浜市、東京都足立区千住に所在しており、大部分の学科や施設は上野公園内に集中している。

東京藝術大学附属図書館(上野本館)内観
撮影=望月花妃

 前身の東京美術学校、東京音楽学校から数えると130年を越える歴史を持ち、美術分野においては横山大観から村上隆まで数々の著名なアーティストを輩出。音楽分野からも坂本龍一、葉加瀬太郎らが卒業生として名を連ねている。

 近年はまた、映画やアニメといった映像研究やアートプロデュースにも分野を広げており、こうした教育・研究活動を支える図書館でも、いわゆる普通の形態の本を収集するだけでなく、アートブック、SPレコード、作曲家の自筆譜など芸術情報のアーカイブや活用が行われている。

東京藝術大学附属図書館(上野本館)内観
撮影=望月花妃

 そんな東京藝術大学の図書館には、どのような本が所蔵されているのか。同館司書から寄せられたブックリストを、推薦コメントとともにご紹介する。

一年間でもっとも借りられている本

パブロ・エルゲラ『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』

パブロ・エルゲラ『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』(フィルムアート社、2015年)

 社会と深く関わるアート=ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)。SEAはコミュニティと密接に関わるプロジェクトで社会変革を目指すものです。2021年度もっとも貸出が多かったのは近年、注目されているテーマだからでしょう。アートのみでなく、様々な分野を横断するSEAについて、本書では「コミュニティ」「状況」「会話」「コラボレーション」「敵対関係」「パフォーマンス」「ドキュメンテーション」など、10の観点から理論と実例を豊富に紹介しています。

アート入門にぴったりな本

佐藤直樹『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』

佐藤直樹『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』(世界文化社、2021年)

 本書は佐藤直樹教授の授業「西洋美術史概説」を再現するように、全15回の講義形式で構成されています。「美術史」でありながら、ただ通史的に作品を並べて概説するのではなく、独自の視点で選んだ作品をじっくりと読み解いていきます。平易でありながら大胆な解説に目からうろこです。

 「バランスよく作品を知るより、個々の作品に対する具体的なアプローチを学んだほうが、実は美術鑑賞のコツを得るには手っ取り早いのです」。

 つくる人向けの本

パウル・クレー『造形思考』

パウル・クレー『造形思考』(新潮社、1973年)

 パウル・クレーがバウハウスで教員だった頃の講義草稿などを集成。画家クレーの創作の源泉に触れることができます。例年、貸出上位の本で、クレーの学生になったつもりで紐解いてみれば、示唆に富んだ言葉やたくさんの図に、きっとインスピレーションが得られるのでは。

 「わたしはまず論理的に、カオスから始めよう。(中略)わたし自身まず第一にカオス的な存在だから」
 「芸術の本質は、見えるものをそのまま再現するのではなく、見えるようにすることにある」

 「いま、読んでほしい」本