なぜアートを集めるのか
──まずはおふたりのご職業を教えていただけますか?
柵木 ファッション関係のパタンナーをしており、自身の型紙の製作をしながら洋服をつくる会社を経営しています。
亀井 テレビ局のコンテンツ戦略部で、おもにアニメ作品のプロデューサーをしています。
──おふたりがアートコレクターになったきっかけを教えていただければと思います。
柵木 2016年ごろに事務所を構えることになり、オフィスのインテリアのためにアンディ・ウォーホルの作品がほしいと思い立ちました。当時はウォーホルやパブロ・ピカソといった有名作家の名前しか知らなかったわけですが、調べてみたらとにかく価格が高くて驚きましたね。いろいろと調べた結果、自分が買える値段のウォーホルの作品を探して飾ることができたのですが、その過程がすごく楽しかったのでどんどんとアートにのめり込んでいきました。
亀井 私は2010年、大学を卒業して就職したタイミングで初めて作品を購入しました。大学時代はバックパッカーをしていて、世界各国の美術館も訪れましたが、ベルサイユ宮殿でやっていたジェフ・クーンズの展示やポンピドゥー・センターの展示がすごくおもしろかったので、現代美術への興味が強くなり、帰国後は現代美術の展示をよく見に行くようになりました。
新卒で入社してすぐ、ギャラリー小柳に勇気を出して入ってみたら、佐藤允さんの個展がやっていて、それがすごく良かったんです。当時、ギャラリーで作品を買えることも知りませんでしたが、佐藤さんは同い年の作家でしたし、運命を感じて当時の貯金を全部はたいて購入しました。そこからはだんだんと勉強しながら、コレクションを広げていきました。
──アートを最初に飾ったときはどのような気持ちになりましたか?
柵木 ものすごく感動しましたし、涙が出ましたよね。「やっと手に入った」という気持ちでした。作品サイズも大きかったので、原体験としても強く印象に残っています。
亀井 私も柵木さんと似ています。「自分しかこの作品を持ってないんだ」という体験が感動的でしたし、自分だけが毎日見ることができるということが本当に嬉しかったです。
──コレクションした作品を、ご自宅ではどのように楽しんでいるのですか?
柵木 常時15〜20点ほどを自宅に、5点ほどを事務所に飾っています。自宅は季節ごとに、事務所は週1くらいの頻度で作品を入れ替えています。作品はすべて自宅の部屋で保管しており、すのこを敷いて24時間エアコンをつけて空調を管理しています。でも、家族に対しての肩身が狭いんですよね(笑)。
亀井 私は展示作品をあまり入れ替えられていないですね。いままで自宅で作品を保管していたのですが、子供が産まれたのでコレクションの大半を自分や妻の実家で保管するようになりました。ギャラリー等で購入したあと直接実家に送ってしまうことも多く、手元に作品がないので、入れ替えがなかなかできないという悩みがあります。妻の実家に置いてある作品の保管状況などは正直わからないのですが、カーテンを閉めて、吸湿剤を置いておいてもらう、ということをお願いするくらいが精一杯ですね(笑)。
コレクターにとっての保管の重要性
──おふたりはこれまで、美術品を保管するために倉庫を借りることがなかったようですが、どのようなことがネックになっていたのでしょうか?
柵木 いちばんのネックはお金ですが、これまで真剣に美術品保管ができる倉庫のことを調べてこなかったので、あまり知識がないという面もありますね。いま保管に使っている部屋はいずれ子供部屋にするので、作品の保管場所は大きな課題です。
亀井 私もお金の問題です。継続して借りるとなると、それなりの金額になってしまい、蓄積したら結構な金額になりますよね。そのお金で作品が買えてしまうと思うとちょっと躊躇してしまったり(笑)。でも寺田倉庫さんの1点440円から預けられる「作品単位保管プラン」などは、無理をしなくてもいいので検討できる価格感ですよね。いずれコレクションが増えれば「部屋保管プラン」へと移行することもできますし。
──保管に悩むおふたりに、本日「TERRADA ART STORAGE 天王洲 PREMIUM」を見学していただきましたが、いかがでしたか?
柵木 美術品を保管する倉庫の見学は初めてだったのですが、正直、預けたいと思いましたね。大きい作品は家に保管しづらいため、購入のときにどうしても小さめの作品に目がいくようになってしまいます。でもコレクターとしては、大きさはひとまず置いておいて、その作家の一番良いと思った作品を買いたいわけですよね。倉庫があれば、そういったハードルがひとつ外せるわけなので、倉庫代の捻出をがんばってでも、借りることを具体的に考えてみたいと思います。
また、都内からアクセスしやすい天王洲という立地も魅力ですね。周辺には多くの美術関連の施設がありますし。
亀井 内装が倉庫のイメージとはかけ離れた凝ったもので素敵ですよね。柵木さんもおっしゃっていますが、サイズが大きい作品ほど家に置きづらいわけです。100号以上の絵画を飾ることができる家は、都内在住のビジネスパーソンだと限られてくるので、そういった作品を所持するには、必然的に倉庫の問題を考えなくてはいけません。こうして具体的に見学させていただけると、保管のイメージが湧きますね。
──寺田倉庫では、会員登録をすると無料で作品情報の登録と一元管理がPCやスマートフォンからできるコレクション管理ツールも提供しています。おふたりは作品管理をどのように行っていますか?
柵木 ポートフォリオを個人的につくって管理しています。ひとつひとつの作品情報を記録していくのは膨大な作業ですけど、コレクターなのでその作業自体が楽しく感じるわけです。寺田倉庫さんのコレクション管理ツールも、作品データの項目を埋めて登録していくという過程そのものがコレクター魂をくすぐるのではないでしょうか。
また、写真を登録して、持っている作品をコレクター同士で見せあえるのはいいですね。見せたい作品をスマートフォンのカメラロールからいちいち探すのは大変ですし、相手を待たせてしまうので。
亀井 柵木さんはすごいですね、私は全然管理できていない(笑)。でも、寺田倉庫さんの管理ツールは、細かいところまで項目入れられるから良いデータベースになりそうです。価格が入れられるのもおもしろいですね、これまでコレクションに使った金額を振り返るのはちょっと怖いかもしれませんが(笑)。
柵木 今後は、こうしたサービスを発展させて、コレクター同士がコミュニケーションをとれるツールになっていってくれると、よりおもしろいかもしれません。コレクターをやっていて良かったと思うことのひとつに、同じ趣味を持つコレクター仲間とつながれることがありますから。
より良いコレクションのために
──その当時から現在にいたるまで、作品のコレクションを続けてきたおふたりですが、集めるうえで「軸」はあるのでしょうか?
柵木 自分と同年代の国内のペインターの作品を中心にコレクションしています。同年代の作家は、私と同じ目線で人生を見つめていたり、子供が自分の子供と同年代だったりと、共感したり問題意識が似ていたりするところがいいですね。
亀井 私は作家のパーソナリティや身体性に根づいた作品を中心に買ってきました。コンセプチュアルすぎたり、マーケットの期待に沿いすぎた作品は、自分で良し悪しを判断できないのであまり買うことはないです。最近は国内のアーティストが高騰しつつあるので、海外の1980年代後半〜90年代生まれの世代による作品を狙って買っています。
──具体的に、いま魅力を感じていたり、購入を狙っているアーティストはいますか?
柵木 国内の若手だと、玉山拓郎さんや平田尚也さんが気になる作家ですね。流行とは違うところで作品をつくっている気がしますし、作品の説明を受けても「まったくわからない!」と思わせてくれるところもおもしろいです。
亀井 国内だと、皆藤齋さんや山下紘加さんの作品がおもしろいと思っています。ふたりとも自力がある作家ですね。海外作家では今度ヴェネチア・ビエンナーレでも展示された、手縫いやアッサンブラージュといった手法で立体をつくるタウ・ルイス(Tau Lewis)というカナダ出身の作家です。
──最後に、これからアートコレクションをする方へのアドバイスがあれば教えてください。
亀井 ひとまずは美術館に足を運ぶのがいいのではないでしょうか。「自分はこういうのが好きだな」という感覚がだんだんわかってくると思います。それからギャラリーを訪れてみて、「いいな!」と思って予算的に許容できるならまずは買ってみる。毎日その作品を見て「やっぱりいいな」と思うならその選択は間違ってないし、「違うな」と思ったなら、また考えてみたらいい。限られたお金をアートのために使うことで自然と勉強をしていくと思いますし、その勉強自体もとても楽しいと思います。
柵木 私も身銭を切るって大事だと思います。本気でアートに向き合い、検証していくという時間が生まれます。1年でも迷っていいから、どうしてその作品が好きなのかを徹底的に考える。美術館で作品と向き合うのとはまた違う、買うという行為からしか得られない美術との向き合い方の楽しさを見つけられるのではないでしょうか。