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若冲を見出した先見性。80年におよぶ蒐集の歴史から見る細見美術館の精華

開館25周年を迎えた京都の細見美術館。それを記念した展覧会が日本橋高島屋S.C.で開催されている。国内でいちはやく伊藤若冲を見出してもいた細見家三代のたぐいまれな審美眼と先見性が実現した質の高いコレクションを堪能できる貴重な機会だ。

文=坂本裕子

展示風景より、伊藤若冲《鶏図押絵貼屛風》(寛政9(1797)頃、細見美術館蔵)

 京都・岡崎、平安神宮の近くに櫛目引きの外壁のモダン建築(大江匡設計)が印象的な細見美術館は、1998年に開館した。昭和初期に大阪の繊維業の実業家・細見良(初代古香庵)に始まる細見家の三代が蒐集したそのコレクションは、日本の美術工芸のほとんどすべての分野、時代を網羅する内容で、国内外から高い評価を受けている。平安・鎌倉期の仏教美術、室町期の水墨画、茶釜、茶陶に、桃山期の屛風や七宝工芸、江戸期の絵画作品の優品が多く、世界屈指のコレクションとして知られる。

 同館は開館から四半世紀を迎え、これを記念して、選りすぐりの名品約100件を紹介する展覧会が東京・日本橋高島屋S.C.で開催されている。とくに人気の高い江戸絵画を主軸に、その幅広い時代とジャンルを象徴する優品が集結し、まさに夢のような空間となっている。

展示風景より 、入口で迎えてくれる豪華な金屛風《花車図屛風》 (江戸後期、細見美術館蔵)

 父、子、孫へと三代に引き継がれた蒐集には、それぞれの特徴がある。創始者である初代古香庵は、「神や仏に捧げられた造形にこそ真の尊さがある」と残しているように、日本の古美術のなかでも特に仏教美術に魅せられた。還暦を機に事業から引退し、晩年はコレクションの質と量の充実に没頭した、それがコレクションの原点となっている。研究者などに教えを乞いつつ鍛えられたその審美眼は、のちに重要文化財に指定された所蔵品の9割が仏教・神道美術に類するものであったことにも表れている。

 金工品から始まったという蒐集は、茶の湯釜にも波及し、各地、各時代の名釜を集めるなかで研究を深め、このジャンルの第一人者となる。数寄者たちとの交流からは、茶席で秘蔵の道具を披露する愉しみを知り、室町時代の水墨画や茶陶へも関心が向けられる。

 初代の蒐集の精華は、「祈りのかたち」と「数寄の心」で紹介される。小さくて素朴な《金銅誕生釈迦仏立像》や光明皇后書と伝わる《蝶鳥下絵法華経断簡》をはじめ、仏具や仏画には、真摯な信仰の想いが感じられるだろう。

展示風景より、「Ⅰ 祈りのかたち」
展示風景より、左から《金銅誕生釈迦仏立像》 (飛鳥時代)、《薬師如来懸仏》「熊野三山御正体集」のうち(鎌倉時代) ともに細見美術館蔵
展示風景より、伝光明皇后 書 《蝶鳥下絵法華経断簡》(平安中期、細見美術館蔵)

 茶の湯に関わる蒐集品もまた、絵師や職人の手を思わせる、渋くも温かい作品が多く、蒐集家の好みを伝える。

 ここではとくに、根来(ねごろ)に注目したい。中世に繁栄を極めた紀州・根来寺で作られた什器や飲食器にはじまり、現代では黒漆層の上から朱漆を重ねて仕上げる漆器を指すこの器物を、初代は「修練を積んだ禅僧のようにも感じます」と愛し、茶席で積極的に用いてその普及を促したという。シンプルながら、塗りに多くの手間と時間をかけた端正な作品は、同館のコレクションの特色にもなっているものだ。

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