色彩と愛がテーマ。マリア・ファーラが見せる普遍的風景とは?

フィリピン生まれで日本育ち、現在ロンドンを拠点に活動しているアーティスト、マリア・ファーラ。その出自でもあるアジアでの初個展「Too late to turn back now」が、オオタファインアーツで開催されている。今回の展覧会や作品制作の背景について、ファーラに話を聞いた。

 

マリア・ファーラ

 1988年にフィリピンに生まれ、15歳まで山口県下関市で過ごし、その後ロンドンに移住したペインター、マリア・ファーラ。そんな独特な背景を持つファーラのアジア初個展「Too late to turn back now(振り返るにはもう遅い)」が、8月24日よりオオタファインアーツで開催されている。

 本展のタイトルは、アメリカの音楽グループ「コーネリアス・ブラザーズ&シスター・ローズ」が1970年代に発表した名曲『Too late to turn back now』から由来するもの。ファーラは、「このタイトルは愛についてのものであり、(本展では)色彩と愛をテーマにしたかったのです。色彩は恋人のようもの。色彩はキャンバスに塗られたら変化し、恋人も付き合い始めると変化するのです」と語る。

展示風景

 ファーラは、2016年頃よりヨーロッパで個展やグループ展を行うことで知られるようになり、18年にロンドンの現代美術館「サーチ・ギャラリー」に作品を収蔵。ケーキや犬、バゲットを持つ女の子など、日常でふと目にした場面を、大きな余白とともに、浮遊感が漂うように描いてきた。

 しかし本展で紹介される新作は、以前の作品の画風とはまったく異なる。彩度の高い油彩具をキャンバスに重厚に塗り重ねることで、より濃密な色調へと変化を見せている。このような変化についてファーラは、「私は、挑戦的な色に目を向け、それらの色とどのように調和することができるかを考え始めたのです」と説明する。

 「大量の油彩具を使用することは、物理的に非常に困難です。素早く描かなければならないし、考えすぎてはいけません。以前は、これほど速く描くスキルや能力はなかったのですが、いまでは、色を考えながら、アイデアが消える前に素早く描くことができるようになりました」。

展示風景より、《ロビンⅡ》(2019、部分)

 いっぽう、ジュエリーをくわえる鳥や、ベッドに立つ鶴、道に腹ばいになる犬など、愛らしいモチーフも増えており、それぞれの作品で存在感を放つ。「以前では、タバコや清掃員などのモチーフはなかったですが、もっと物語のある絵を描きたかったのです。ケーキと女の子だけでも十分物語性がありますが、より多くの人々を作品に持ち込みたいです」。

 イギリス人の父とフィリピン人の母を持つファーラは、「ケーキはいろいろな国の文化的な象徴だと思います。それぞれのケーキはたんなるケーキではなく、その背後には歴史があります」と話す。出生地であるフィリピンを思わせる《ウベ・マカプノケーキ》(2019)では、フィリピンを代表するデザートとも言える紫色のウベ・マカプノケーキや、バナナ柄のワンピースを着ている女性、熱帯地方で栽培されるマンゴーなどが描かれている。「フィリピンの夏の夜は本当に暑くて、濃い紫はフィリピンの夜のようなものだと思っています」。

《ウベ・マカプノケーキ》(2019、部分)

 ファーラが描く人物は、ほとんど背を向けており、表情をうかがうことはできない。これについて、ファーラはこう語る。「ポートレートではないので、特定の人物を描いたものではありません。名前もない。女性ですが、ひとりの女性ではありません。アンチ・ポートレートの意味もありますね」。

 いままでの人生の約半分を日本で過ごしていたファーラの作品には、マンガや書道の影響も見てとれる。「私がシリーズを描く理由は、マンガの一つひとつのページを描くこととよく似ているからです。ひとつの絵は完成したものではなく、つねにシリーズになっています。習字も、線の重要性を教えてくれました」。

展示風景

 自身の出自でもあるアジアで初めて個展を開催することについて、ファーラは、「東京で展覧会を開くのはいつも夢でした」と述べている。「私は日本の鑑賞者がどう思うかに、非常に興味があります。なぜなら、私の作品には間違いなく日本の影響があるのですが、それほど明白ではないからです」。

編集部

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