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アーティスト・江上越とデザイナー・宮前義之がともに描くもの。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの協業プロジェクトとは

A-POC ABLE ISSEY MIYAKEは、アーティスト・江上越と協業プロジェクト「TYPE-XVI Etsu Egami project」を発表し、ブルゾンを発売する。鮮やかな色彩と力強い線のストロークで独自の世界を切り開く江上とA-POCとのあいだにどのような化学反応が起きたのか。A-POC ABLE ISSEY MIYAKE・宮前義之と江上越が語り合う。

聞き手・構成=浦島茂世 撮影=稲葉真

ふたつのクリエイションが出会うとき

──A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、A-POC ABLE)のプロジェクトとして、宮前義之さんと江上越さんが出会い、「TYPE-XVI Etsu Egami project」として結実するまで、どのような道のりだったか教えていただけますか。

宮前 A-POC ABLEは三宅一生が掲げた「一枚の布」というコンセプトを発展させながら、異分野のアーティストや研究者など外部の様々な人たちと一緒に制作に取り組むという活動を行っています。A-POC ABLEはその米国ローンチを記念したイベント「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE: So the Journey Continues」を、2024年5月、国際的なアートフェアである「フリーズ・ニューヨーク」の会期中にニューヨークの店舗で開催しました。そのイベントに江上さんが来てくださったのが最初の出会いです。それ以来、対話を重ねるなかで一緒になにかをつくろうと話が膨らみました。

江上 あのイベントはとても興味深かったです。服が並んでいる空間に湯気が立ち込めていて、生地が膨らんだり縮んだりするパフォーマンスが衝撃的でした。布がまるでひとつの「生き物」のように見えたんです。その後、イッセイ ミヤケのアトリエを見学させていただく機会があり、布がかたちづくられていくプロセスが本当におもしろかった。素材や技法についてたくさん質問しました。

宮前 江上さんが熱心にメモを取られていたのが非常に印象に残っています。我々のチームとしても、最初から「こういう服をつくります」と決め打ちするのではなく、まずは我々の技術や素材をひと通り見ていただき、会話のなかで徐々に方向性を探っていきました。

左が江上越、右が宮前義之。テキスタイルづくりを振り返る

──「TYPE-XVI Etsu Egami project」の第1弾は、江上さんの《RAINBOW-Pablo Picasso》《RAINBOW-Pierre-Auguste Renoir》《RAINBOW-Paul Cézanne》(いずれも2025)の3作品をモチーフとした、3種類のブルゾンの展開となりました。なぜブルゾンだったのか、教えてもらえますか。

宮前 今回は性別を問わず、街で自然に羽織って着用する姿をイメージしながら、ブルゾンを選択しました。A-POC ABLEでは、大きいブルゾンの迫力や存在感を意識して、オーバーサイズのトップスを展開することもありました。しかし、今回のプロジェクトでは美術館に飾るアートピースではなく、江上さんの作品が街の人の生活や身体、日常に届くリアリティを感じられる服をつくりたいと考えました。そのため、着心地の良さや強度の確保、手入れのしやすさといった実用面もしっかりと意識しています。

江上 試作品をたくさんつくっていただきましたが、そのときから「二次元である絵画をどうやって三次元の服に起こすか」という視点が、自分にはとても新鮮でした。私が人をモチーフとしてキャンバスに絵を描くときは、人間という三次元の対象を二次元に落とし込んでいるのですが、今回のプロジェクトではそれがふたたび服として立体構造になり、さらに人間の動きとシンクロしていくわけです。静止するのではなく、動くことによってつねに変化し続ける「かたち」になる。とてもおもしろいと感じました。

江上の作品をジャカード織りで表現した、TYPE-XVI Etsu Egami project第1弾の3種類のブルゾン

宮前 三次元を二次元にしたものを、ふたたび三次元に戻す、というプロセスそのものが、こちらとしても興味深かったです。テキスタイルの試作品を何度もつくり直しながら試行錯誤しました。現場のスタッフは江上さんの作品を穴が空くほど見入っていて、「この線はどの順番で描かれたんだろう?」、「ここで筆を持ち替えているのかな?」と、謎解きをするかのように研究していました。

江上 原画を描いた本人以上に筆跡をしっかり見てもらって、線を慎重に汲み取ってくださってたのがとても嬉しかったです。自分の描いた絵が服になるというのは今回が初めての経験で、正直なところ、当初は少し怖さや恥ずかしさもありました。というのは私が絵は描いているときは、誰にも見られたくないと思うくらい本能のままの状態で、その状態のものを誰かが身にまとって街へ出かけていく、ということが想像できなかったんです。

 でも、実際にできあがった服を見たときは、想像以上の美しさで本当に驚きました。そして、10年ほど前の私の表現と、今回の服の構造が重なり合っていることにも気がつきました。現在、私が制作している作品の多くは線が中心となっていますが、以前は面で構成していた時期がありました。二重織りの袋状構造や分割線によって生まれた表情を見たとき、当時の感覚が思い起こされたんです。この服を通して、自分の過去と現在がリンクしたような新鮮な発見がありました。たんに絵をそのままプリントするようなコラボレーションとは異なり、私がキャンバスに向かうときに求めているプロセスや、絵以上に表現したかったことを、宮前さんやチームのみなさんが汲み取ってかたちにしてくれたと感じました。A-POC ABLEのものづくりを通して、私も新しい発見をたくさん得ることができました。

左が江上越《RAINBOW-Pablo Picasso》、右が《RAINBOW-Paul Cézanne》をあしらったブルゾン

編集部