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大西康明インタビュー。川原の石を型取ることで、世界を測り直すアーティスト

日常的な素材や工業製品を用いて、空間全体を彫刻に仕立てる作品を手がけてきた大西康明が、箱根山中に佇むポーラ美術館のエントランス付近のアトリウム ギャラリーを「彫刻化」し、場の雰囲気を一変させている。HIRAKU Project Vol.15 「大西康明 境の石」展だ。どのような考えと手法によって場の空気をつくり変えたのか、アーティスト本人の言葉を聞いた。

聞き手・文=山内宏泰

大西康明 撮影=編集部

──美術館内に入りエスカレーターを降りていくと、いきなり無数の球形・円形が連なる空間が広がっており、非日常の世界に迷い込んだかのような、また大自然の中に身を置いた気分にもさせられます。《境の石》と題されたこの作品、いったいどんなものなのでしょうか?

 川原にある石を銅箔で型取りし、石そのものではなくその型を空間に配置していく作品を、ここ2年ほど制作しています。

 今回はその最新作です。展示をするときは、与えられた空間をどう満たすかを考えます。会場となるポーラ美術館1階のアトリウム ギャラリーは、天井から外光が差し込んで気持ちの良い展示空間です。この空間をどのように使って何を注ぐのかを考えるのは難しくもあったけど楽しい時間でした。

HIRAKU Project Vol. 15「大西康明 境の石」展の展示風景より Photo by Ken Kato

 空間をどうとらえたかといえば、まず三方を白壁で囲まれたギャラリー部分をひとつの容器と考え、その空間を凹凸の凹として、3つの壁に半球形に成形した約千個の銅箔を設置しました。これら銅箔は凸面が表にきています。容器の凹と、その内側に付いた凸が、拮抗するようにしたのです。これが《境の石 凹に凸》です。

 ギャラリー部分の前面には、天井の高いアトリウム空間が広がっています。ここにはワイヤーでできた大小5つの球体の構造を置き、その表面に約千個の銅箔が付いています。それらは、凹面が外側にくるようにしています。空間内にゴロっと並ぶ球体の構造が凸だとしたら、表面に付けた銅箔が凹であり相対しているといえます。こちらは《境の石 凸に凹》です。 

球体のオブジェ表面に凹になって付けられた銅箔 Photo by Ken Kato

──手のひらに収まりそうなサイズの銅箔のオブジェは、よく見れば一つひとつ形が違います。チョコレートの包み紙のようでもあり、樹に成る果実か花弁にも思えますが、これらはいったいどうつくられ、何を表しているのでしょう?

 先に述べた通り、川原の石を型取ったもので、その方法はとてもシンプルです。焼き芋をするときにアルミホイルで芋をぐるっと巻きますよね。あれと同じように、アルミホイルよりやや厚い18μmの銅箔を用いて、川原の石を覆って型取っていますが、中の石を取り出す必要があるため、半球のお椀のような形になっています。

 大学では彫刻を学んだので、彫刻を制作する過程で生じる型取りの作業には馴染みがありました。制作を続けていると、彫刻としてつくるモノ自体よりも、型を取る作業やそれ以外の部分に興味が湧いてきたんです。型に着目すると、日常では見えていなかった部分が明らかになったり、裏側から見ることができて、型の内側にある空洞や余白、その境界をテーマにした作品を模索するようになります。これまで様々な素材を使った作品を制作しましたが、行き着いたのがこの作品です。

ギャラリーの内壁に付けられた半球形の銅箔 Photo by Ken Kato

 当初は家の近くの川原へ出かけていき、1日に100個くらいの石を型取りしていました。手頃な石を見つけては円形の銅箔で石を包み、指先で押し付け、表面を木槌で叩いて、表面を撫でるようにしながら成形します。

 川原の石は、地球の内側のマグマが固まり地表に押し出され、最初はゴツゴツしていたものが、川を流れていくにつれて角が削れて丸くなり、そのいくつかは海までたどり着きます。大きく見れば石の一つひとつはとても長い時間をかけて、地球という球体の表面をなぞっていることになりますね。

 その石の旅の途中である川原で石と出逢い、その型を取ることによって、地球の内側から生み出された塊の表面を、なぞり直しているのです。

 また、薄い箔で型を取ると、石の外側の形と内側の形を見ることができます。これまで川を流れて削られた部分と、これから削られるであろう部分の双方が見える気がするのです。型を取ることで、石が内包する時間まで表れるのではないかと考えています。

──石を包むのに銅箔という素材を用いることとなったのはなぜですか?

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