はじめに
筆者は2019年6月、ウェブ版「美術手帖」に、2018年度までの統計データをもとに対談や識者による記事から構成されるシリーズ、「ジェンダーフリーは可能か?」の第1回「統計データから見る日本美術界のジェンダーアンバランス」を執筆した。この記事では、美術界全体としては女性が多いものの、高い地位にいる者に男性が多く、相対的に低い地位にいる者に女性が多いというアンバランスな状態が明らかになった。
「国際ガールズ・デー」にあわせて公開される本稿では、とくに若い世代に関連する統計データに基づいて、前回記事以降の変化や、明らかになったことを書いていこうと思う。
なお、筆者が目指すべきだと考えるのは、たんに高い地位にある女性の割合を増やすことではない。実際、女性政治家のなかには、極めて排外主義的で多様性を拒否する者も存在する。意思決定層に女性を増やすという目的のみに注力してしまうと、かえって保守的な社会になってしまう可能性があるうえ、いま以上にマイノリティ間の格差が広がるなどの危険性もある。しかしながら、集団の意思決定が可能である地位が高い層のジェンダー・バランスが偏った状態は、芸術創造環境においても健全ではないと考えられる。美術界に関しては、教員や美術館館長などの意思決定層に女性があまりにも少ないという状況があり、この改善は急務であると考えられる。
1.美術大学におけるジェンダー・バランス
1-1.全体像
毎年行われている「学校基本調査」によれば、学部在学者および大学教員のうち女性の占める割合は増え続けている。学部在学者のうち女子学生の占める割合は、1993年に30%、2008年に40%を超え、2022年には45.6%に達した(*1)。いっぽうで、大学教員のうち女性の占める割合は1994年に10%を、2010年に20%を超えたが、2022年度は26.7%で、OECD加盟国のなかでは最も低い。なおOECD加盟国の平均は、約40%である(*2)。また、美術分野は女子学生の割合が大きい傾向にあり、2022年度の入学者における女子学生の割合は71.9%である(*3)。これは、全国の大学平均からすれば26.3%も多いことになる。