アンリ・マティス、奥深き室内画の世界へ

東京都美術館で日本では約20年ぶりとなる大規模な回顧展が開催中のアンリ・マティス。様々な作品を手がけたマティスだが、ここでは「室内画」にフォーカスし、その表現世界に迫る。

文=Verde

「マティス展」展示風景より、アンリ・マティス《赤の大きな室内》(1948)

 17世紀にオランダでジャンルとして成立して以来、各国で多くの画家が室内画を描いてきた。20世紀を代表する巨匠アンリ・マティスもそのひとりである。

 彼は生涯を通して、自身のアトリエや家族の集うリビングを題材に、部屋を描き続けた。「肘掛け椅子のような」心地よい絵画を生涯モットーとしていたことを思えば、彼が、まず自身にとってくつろげる場所を愛着のあるモチーフとして描き続けたのは当然と言えよう。しかし、マティスの画業を通して見るとその描き方は時期によって様々で、多様性に驚かされる。今回は、東京都美術館で開催中の特別展「マティス展」の室内画作品に焦点を当て、その見どころを紹介するとともに、彼の表現世界に分け入ってみたい。

画家としての堅実な一歩を示す《読書する女性》

 アンリ・マティスが画家を志すようになったのは、20歳の頃、病気の療養中に母が絵具箱を差し入れてくれたのがきっかけだった。

 絵を描くことは彼にとって、ベッドの上での生活から自分を解放し、自由を感じられる、喜びの一時でもあった。退院した彼は、本格的に画家を志すことを決意。勤めていた法律事務所を辞め、パリに出ると、画塾アカデミー=ジュリアンや、象徴主義の画家モローのアトリエで学びながら、修練を積む。そして、1895年にはエコール=デ=ボザールに入学する。その翌年、国民美術協会のサロンに出品され、国家買い上げとなったのが、この《読書する女性》である。

アンリ・マティス 読書する女性 1895  板に油彩 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

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