日本訪問で得た展示構想
街一番の目抜き通りであるパウリスタ大通りのほぼ終点にビルを構えるIMSは、ブラジルの歴史的な写真を多数アーカイブし、現代の写真制作を奨励・発表する文化財団だ。このたびの森山大道の大規模回顧展は同館の各744平米の展示室2つを占め、「1960~70年代」と「1980年代~現在」のセクションに時系列で区分されて行われた。前者は『にっぽん劇場』『アクシデント』『プロヴォーク』『写真よさようなら』などを展示。後者は主に、『記録』『LABYRINTH』『Pretty Woman』などからの作品を紹介した。
「森山大道の作品との出会いがいつだったかは覚えていませんが、初めて訪日した2008年に東京都写真美術館の図書室で日本の写真史について調べるなかで、森山氏の位置を大まかに確認しました。2012年のテート・モダンでのウィリアム・クラインとの二人展の後に、IMSは雑誌『zum』第7号(2014年刊行)で森山氏の『On The Road』のエッセイと写真を掲載しました。そのときの反響と評価の高さが本展を企画する発端となりました」とチアゴ・ノゲイラは語る。『zum』はIMSが年2回発行する写真とその論考についての専門誌で、ノゲイラはその編集長も務める。
本展を手掛けるにあたってノゲイラは森山の遍歴とそれを取り巻く環境への知見を広める目的で国際交流基金の助成を得て2019年に1ヶ月間日本に滞在した。森山とその財団はもとより、造本家の町口覚、写真史家の故金子隆一など、森山の創作と日本写真史に精通した人物との面会を通じてサンパウロでは得難い情報を集めた。この訪日が展示構想の骨子となったとノゲイラは語る。