コロナ禍に揺れた1年。2020年のアートシーンを振り返る
新型コロナウイルスのパンデミックが直撃した2020年のアート界。主要な出来事を振り返る。

1月
・1月1日付で森美術館の新館長に片岡真実が就任。「国際的な現代美術館としての立ち位置を維持しつつ、アジア太平洋の現代アートについて積極的に調査研究、展示活動を行う」など5つのビジョンを掲げた。
・1月18日、ブリヂストン美術館が名称新たに「アーティゾン美術館」として開館した。

・新型コロナウイルスの影響で、中国の美術館が1月末より相次ぎ休館を発表。新型コロナによる休館ラッシュの先駆けとなった。
・髙島屋が1990年度から行っているタカシマヤ文化基金が30回の節目を迎え、風間サチコ、小泉明郎、contact Gonzoの3組が受賞した。
・東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館の3館が4月1日より常設展(平常展・名品展)の料金を値上げすると発表した。東博は1989(平成元)年の消費税導入以降、段階的に常設展の料金を引き上げており、常設展料金は約30年間で3倍近くになっている。
・国際美術館会議(CIMAM)は1月31日、「あいちトリエンナーレ2019」における「表現の不自由展・その後」を含む展示再開について声明を発表。「政治的圧力からトリエンナーレの自治権を回復するため、そして展示再開のために動いたアーティスト、学芸員は称賛に値する」と表明した。
2月
・パリ市内14の美術館のコレクションを管理する公共団体「Paris Musées(パリ・ミュゼ)」が、約15万点の作品画像を「オープン・コンテンツ」として無料で利用可能にすると発表。これによって、セザンヌやクールベ、レンブラントらの作品を高解像度で鑑賞することが可能となった。
・新型コロナウイルスの影響で、3月に予定されていたアジア最大のアートフェア「アート・バーゼル香港2020」の開催中止が発表。開催中止は同フェア史上初めて。また3月18日〜22日に香港で開催予定だったアートフェア「アートセントラル」も開催中止を発表した。
・2021年度の開館を予定している大阪中之島美術館の館長人事が発表。1992年より大阪市立近代美術館建設準備室学芸員を務めてきた菅谷富夫の就任が明らかにされた。
・2019年に香港に開館したアートセンター「CHAT(チャット / Centre for Heritage, Arts and Textile)」が、高橋瑞木をエグゼクティブディレクター兼チーフキュレーターに任命することを発表した。高橋は森美術館準備室、水戸芸術館を経て、17年3月末からCHATで共同ディレクターを務めてきた。
・東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館が展示ギャラリーの移転を発表。2022年に東京・丸の内の明治生命館1階に場所を移すことが明らかになった。
・2月26日、新型コロナウイルスの影響で東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、そして九州国立博物館の4館が休館することを発表。また翌日には国立美術館5館も休館を発表し、この頃から日本の美術館が相次いで休館する事態となった。

3月
・3月1日、ルーヴル美術館が新型コロナを受けて休館に。従業員の代表者300人による臨時の会合を開催し、休館の決定をした。
・アメリカ有数の科学、芸術、自然史の博物館群・教育研究機関複合体である「スミソニアン博物館」は、約280万点のデジタルコレクション画像やデータが、自由に利用できるようになったと発表。歴史的人物の肖像画から恐竜の骨格の3Dスキャンまで、芸術、科学、歴史などの高解像度画像や研究データを一括してダウンロードできる。
・「建築のノーベル賞」とも言われ、これまでザハ・ハディッド、レム・コールハース、フランク・ゲーリーらが受賞してきたプリツカー賞において、アイルランド出身の女性建築家ユニットであるイボンヌ・ファレルとシェリー・マクナマラが2020年のプリツカー賞を受賞した。アイルランドからの選出も、女性ユニットの選出も同賞史上初。

・新型コロナの影響がアメリカ美術館界にも及びはじめ、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ホイットニー美術館、グッゲンハイム美術館など、ニューヨークを代表する文化施設が3月13日からの休館を発表した。
・アートフェア東京を主催するアート東京は、2019年のアート産業規模を発表。推計は3590億円で、うち美術品市場は昨年比4.9パーセント増の2580億円となった。
・新型コロナの感染拡大を受け、イギリスは、3月20日にスナック財務大臣が雇用を維持する企業に2500ポンド(約34万円)を上限として、給与の最大80パーセントを助成することを発表。またドイツは3月23日に連邦政府が7500億ユーロ(約90兆円)規模の財政出動を決定するなど、先進国では相次いで支援策が打ち出されたが、日本においては3月末時点では具体的な支援策は出されていなかった。
・3月23日、文化庁は不交付としていた「あいちトリエンナーレ2019」への補助金7800万円に関し、6600万円に減額して交付することを決めた。
・「アート・バーゼル香港2020」の開催中止を受けて設立されたアート・バーゼルのオンライン・ビューイング・ルームが3月20日〜25日に一般公開され、235のギャラリーが参加し、世界中から25万以上の訪問者を記録。これがアートフェアのオンライン化の先駆けとなった。

4月
・前東京国立近代美術館企画課長の蔵屋美香が、4月1日付で横浜美術館の新館長に就任した。就任後のインタビューはこちら。
・金沢21世紀美術館キュレーターやあいちトリエンナーレ2019のキュレーターを務めた鷲田めるろが、2020年4月1日付で十和田市現代美術館の新館長に就任した。就任にあたってのインタビューはこちら。
・「ポップ・ハプニング」と称するパフォーマンスや東京都知事選立候補などで知られる美術家・秋山祐徳太子が、4月3日に老衰のため死去した。享年85。
・生態や環境についての疑問を投げかける作品を手がけてきた詩人でアーティストのロイス・ワインバーガーが4月23日、心臓発作により逝去した。享年72。
・総合ディレクターの中尾浩治が3月31日付で辞任し、参加予定だったアーティストの大半が不参加となることが明らかになった「ひろしまトリエンナーレ2020」が中止となった。同トリエンナーレについては、県が実行委員会とは別に、展示内容のすべてを選定する「アート委員会」を新設する方針を固め、これに抗議するかたちで総合ディレクターが辞任。緊急声明を発表し、強く批判する事態となっていた。
・5月30日〜31日の会期で開催予定だった「六本木アートナイト 2020」が開催中止となった。2020年のアートナイトは、村上隆をメインプログラムアーティストとして起用。「マジカル大冒険 この街で、アートの不思議を探せ!」をテーマに、「ドラえもん」をモチーフにした数々の作品が発表予定だった。
・草間彌生が、オオタファインアーツのウェブサイトを通じ、新型コロナウイルスの感染拡大が続いている全世界に向けてメッセージを発信した。
・アメリカ・ロサンゼルスのゲティ財団が、新型コロナウイルスの影響を受けた地元の非営利の博物館や視覚芸術団体を支援するために1000万ドル(約10億8000万円)の救済基金を創設。またこれ以降、メガギャラリー「ハウザー&ワース」による「新型コロナウイルス連帯対応基金」(COVID-19 Solidarity Response Fund)への寄付、コロナ禍にあるエルムハースト病院救済のための「Pictures For Elmhurst」、ヴォルフガング・ティルマンスらがスタートさせた「2020Solidarity 」など、アート側からの支援の動きが本格化。KAWSやダミアン・ハースト、村上隆といった著名アーティスト個人のチャリティ活動も見られた。

・北京の798芸術区にある私設美術館「木木美術館」(M WOODS)が、任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」でバーチャル美術館をオープン。またロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館が、「あつまれ どうぶつの森」内に自分だけの美術館をつくる「Animal Crossing Art Generator(どうぶつの森アートジェネレーター)」を公開するなど、アート界からの参入が相次いだ。

・国際美術館会議(CIMAM)が、新型コロナウイルスが蔓延する状況で美術館がどうのように対応すべきかを示した20の注意事項を公開した。
5月
・動画コンテンツの制作・発表でひとり当たり10万円を支払う東京都のアーティスト支援策「アートにエールを!東京プロジェクト」や、京都市の文化芸術活動緊急奨励金、愛知県の愛知県文化芸術活動応援金の創設など、地方自治体による独自の文化支援策が打ち出された。
・バンクシーが医療従事者を称賛する新作《Game Changer》を公開した。

・メトロポリタン美術館が、同館が所蔵する日本の絵集650冊をオンラインで公開。すべてのデータが画像やPDFとして現在もダウンロードできる。
・李禹煥(リー・ウーファン)がSCAI THE BATHHOUSEのウェブサイトで、新型コロナウイルスの感染拡大が続く状況についてのメッセージを発表。
・グローバルな博物館組織「ICOM」(国際博物館会議)が、新型コロナウイルスが蔓延するなかで再開する美術館・博物館のための基本的な対策を提示。「来館準備」「パブリック・アクセス(来館者の導線)」「パブリック・アクセス(健康対策強化)」「パブリック・アクセス(必要に応じたアクセス制限)」などに関する36の項目を公開した。また、公益財団法人日本博物館協会も「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を発表。
・ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、5月18日の国際博物館の日にあわせ、美術館・博物館における新型コロナの影響調査の結果を発表。世界9万5000のミュージアムのうち13パーセントが再開できない可能性があるとした。
・「国家安全法」に対し、1500人以上の香港の文化・芸術関係者が反対声明を発表。強い懸念を表明した。
・「反芸術」運動に呼応した作品発表や、「天動説」をはじめとする大作絵画シリーズ、そして戦争画の研究でも知られる美術家・菊畑茂久馬が、5月21日、85歳で逝去した。
・2月末から新型コロナウイルスの影響で臨時休館を続けてきた京都国立近代美術館が、5月26日に再開。国立美術館では初の再開となった。また同日、3月21日の開館予定を延期してきた京都市京セラ美術館が開館となった。

・《包まれたライヒスターク、ベルリン、1971-95》や《ゲーツ、ニューヨーク市、セントラルパーク、1979-2005》などの大規模作品で知られるクリストが5月31日、84歳で逝去した。

6月
・新型コロナウイルスの影響により4月11日の開館が延期となっていた、青森・弘前市の弘前れんが倉庫美術館館が、6月1日より事前予約制によるプレオープンを開始した。
・2月29日から臨時休館していた東京・上野の国立科学博物館をはじめ、21_21DESIGN SIGHT、東京都庭園美術館などが、6月1日に再開。翌2日には東京国立博物館と東京都現代美術館が一部再開し、東京都写真美術館と江戸東京博物館は全面的に再開を迎えた。

・アメリカ・ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドが白人警官によって殺害された事件。これに端を発した抗議デモに対し、メトロポリタン美術館をはじめとするアメリカのアート界も連帯を示す事態に発展した。またICOMが「博物館はあらゆるレベルで人種的不正や黒人差別とたたかう責任と義務を負っている」との声明を発表。またバンクシーも新作を発表するなど、「Black Lives Matter」はアート界にも大きな影響を及ぼした。
・美術館連絡協議会と読売新聞オンラインが企画したウェブサイト「美術館女子」がSNS上で大きな批判を巻き起こした。批判を受け、6月28日には「美術館女子」のウェブサイトが公開終了した。

・6月21日、アートコレクター・林田堅太郎が私設美術館「KAMU kanazawa」を金沢市内に開館。これ以降、12月までに合計4つの展示スペースをオープンさせている。
