EXHIBITIONS

富田直樹「ラストシーン」

2022.03.02 - 04.02

富田直樹 土曜日 2021 ©︎ Naoki Tomita / MAHO KUBOTA GALLERY

富田直樹 夕暮れ 2021 ©︎ Naoki Tomita / MAHO KUBOTA GALLERY

 MAHO KUBOTA GALLERYでは、富田直樹の約1年半ぶりとなる個展「ラストシーン」を開催する。

 富田は1983年茨城県生まれ。2012年に京都造形芸術大学美術工芸学科を卒業、15年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画専攻を修了。厚塗りの油絵具を重ねる手法で、大都市近郊の風景や空きテナントのファサード、職業をもたないフリーターの若者たちを描く。

 富田の実直でトリックのないストレートなアプローチで描き出されるランドスケープペインティングやポートレイトは、エドワード・ホッパーやその影響を受けた1970年代の日本のイラストレーターの世界観とつながるいっぽう、日本の近代絵画の叙情性を持ち合わせた清々しい世界観を特徴としている。

 フィクションは描けないと言う富田。その作品のほとんどは、自身が撮影した写真をもとに忠実に描いており、厚塗りに重ねられた油絵具の筆致によって変化はつけてあるものの抽象性には遠く、その成り立ちは多分に写真的だ。現代のリアリズムと言うべきその手法が日本の現代アーティストによる具象絵画に見られるいくつかの傾向のいずれにも属していないことにより、富田の作品は際立った印象を与えている。

「ラストシーン」と題された本展では、ひとつの画面に複数の人物の姿をとらえた新作ペインティングを発表する。

 バイクに相乗りしていたり、カラオケのマイクを握っていたり、居酒屋の駐車場に集っているモチーフには注目すべき特徴などはなく、どこにでもいそうな若者の姿が描かれ、そこに若者たちのコミュニティのなかでの緩やかな関係性は感じ取れる。しかし強い絆や決定的瞬間といったモニュメンタルやシンボリックな感覚はなく、あくまでも日常のなかのワンシーンのように感じられる。アンチクライマックスの連続である日々のリアリティがそこに描かれている。

 また本展では富田の代名詞でもある、見る人の心のなかに「微かな痛みを伴う」エモーショナルな感覚を呼び起こす「情景の絵画」が展示される。